壬生狼と過ごした2217日

□願い事ひとつだけ
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「そうだ!なぁ、今日は皆で恵方詣りに行かねぇ!?」


三元日の最終日。留守番組の皆で朝ご飯を食べている最中、突然思い付いたように平助が手を打った。


「は?えほうまいり?何それ」

「なんだ?未来には恵方詣りはねぇのか?」


えほうまいり…
えほうまいり?何度考えてもそんな言葉、私知らないんだけど。


「えほう…あ、恵方巻きなら知ってますけど」

「えほうまき?なんだそりゃ。あのな由香ちゃん。恵方詣りってぇのは毎年正月にその年の恵方の方角にある寺社に参拝してその年の幸福を祈願することだ」


自信満々にそう教えてくれた新八先生は「本当は一日の方が縁起がいいんだけどな」と付け加えて笑った。
てゆーかそれって…


「それってもしかして初詣ってやつじゃないですか?」

「未来でははつもうでって言うのか。そう!それだ!はつもうで!!どうだ?行くか?」

「もちろん行きます!」


初詣。
名称こそ違えども、この時代からあったのかとなんだか感慨深い。
お節のときも思ったけど、江戸時代から…もしくはそれ以前から未来でも続いている習わしみたいのは意外にも多いのかもしれない。
とにかくそういうイベント事が大好きな私は毎年行ってたなぁ。
よーし、今年こそは生まれ変わるぞ!!なんていう儚い決意を胸にし、真新しい気持ちでお詣りするということが大切だと思っていたわけで。帰りにおみくじ引いて一喜一憂したり、出店で買い物したり、楽しかったなぁ。
一緒に行く相手は女友達だったり彼氏だったり。時には男女の一線を越えたヤリ…ゲフンゲフン!!なんてなあはは。
ま、これもこの時代を知るチャンス。行くぜえほうまいり!!


「僕はちょっと」


よし、じゃあ行くか!縁起担ぎにはいいだろうなんて皆が和気あいあいとする中、少し申し訳なさそうにそう口にした男に一斉に視線が集まった。


「なんでだよ〜!総司の好きな甘味の屋台も出てるぜきっと」

「ちょっと二日酔いぎみで」


ニコリと笑う男の笑顔に、嘘だ。直感的にそう思った。
昨日、島原でどれくらい酒を呑んだのかはしらないが、酒に滅法強い総司くんが二日酔いになんてなるはずがない。
それに…今日で正月休みも終わり。明日からまた巡察やらの隊務が始まる。
もしかしたら…

静かにジッと視線を送ればそれに気付いたのだろう。以前平助に絡まれている総司くんとちらりと視線が交わった。そしてフッと垣間見えた黒ぉい笑顔。
…ああ、やっぱり。
きっと例の彼女とデートの約束でもしているのね。そしてその笑顔の意味は私に協力しろやこの野郎、という無言の圧力なわけね。
わかった。わかりました。ここは総司くんのために可愛いお姉さんが一肌脱ぎましょうぞ。
見ていなさい。


「平助。二日酔いの人を連れてって、よけい具合悪くなられるのも面倒だから総司くんには留守番しててもらったほうがいいんじゃない?」

「おま…!!えらく薄情じゃん!!」

「だってもし総司くんが倒れちゃったらさ…長身の総司くんを平助おんぶできんの?」

「…………お、俺、なんかした…?」


あああ、ごめん、平助ごめんよ。つい本音が出てしまったよてへへ。
慌てて「平助、平助牛乳飲みな」と言えば、「ぎゅうにゅうってなんだよ…」とうちひしがれるガラスのハートの持ち主、平助。
えっと、結構マジでごめんなさい。
そして、もしこれで本当に総司くんが二日酔いだったとしたら鬼だな私はオイ。


「ま、でも由香の言うことにも一理あるんじゃねぇの?」


そこで助け船を出してくれたのが皆のお兄ちゃん、左之さん。
さすが左之さん!場の収拾をつけるのが天才!きっといろぉんな修羅場をくぐり抜けているのねいろぉんな。ふふ。


「そっか…。じゃあ悪いけど総司、留守番頼むな!!」

「うん。こっちこそ悪いね、平助」

「総司、戸締まりは頼むぞ、戸締まりは」

「え…………左之さんにはかなわないなぁ……わかりましたよ」


あれ…?もしかして左之さんは本当のことに気付いてる…?のかもしれない。

様子を伺うように左之さんの表情を盗み見れば、ふいに交わる視線。瞬間、ん?と笑った必殺左之スマイルに妊娠させられると思いました。



「じゃ、じゃあご飯も食べ終わったし、そろそろ行きますか!」


おみくじあるかな〜なんて思いながら腰を上げる。
人混みに出るんだもの。化粧もバッチリしなきゃね、なんて。


「そういや新八っつぁん。今年の恵方知ってる?」

「なに!?俺は知らねぇぞ?斎藤なら知ってるんじゃないか!?」

「俺は知らぬ」

「俺も知らねぇぞ」

「…僕も」


………あれ?



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