壬生狼と過ごした2217日

□青天の霹靂
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宵々山の心地よい音を若干耳に残し、屯所への帰路を急ぐ。

腕にはやっと満タンになった通徳利を抱えているわけだけど、これがまた何気に重い。
この場で呑んで中身を減らすか…いや、ダメだダメだ!
…でも満タンで返す必要なくね?元々半分しかなかったし…いや、ダメだダメだ!
……なんてことを何度となく考えながらも私は屯所への帰路を急いだ。


あれからお悠さん行き付けの酒屋に連れていってもらい、どうにかこうにか酒を買うことができた。
「お酒ならあそこの酒屋がいいわ!」なんてニコニコ笑顔で教えてくれたお悠さん。
ビックリ!酒豪なのかと思い素直にそう疑問を口にすれば「やぁねぇ!あんな不味いもの、私は口にしないわよ。父が少し嗜む程度!」と思いきり背中を叩かれた。
その不味いものが私は大好きなんですけどねゴホン!…なんて言えるわけもなく、「由香さんは呑むの?」というお悠さんの言葉に「たまに歳さんに付き合うくらい」と答えた私ってばなんて小心者。
そんなこんなで私とお悠さんはまた会う約束をして短い女子会はそこでお開きとなった。

しかしお悠さんてばサバサバしてるわりにはどこか抜けてるところがあって、一緒に話してて飽きない。こりゃあ総司くんがお悠さんに惚れた理由が心底わかるぜ。
私もいい友達になれるといいな。また近々お悠さんちの診療所に顔を出してみよう。今度は一人で。

それにしても……
やっぱりあの二人、両思いだったじゃん!どうにかこうにかくっ付けてやりたいけどなぁ…

「僕とお悠さんでは住む世界が違いすぎる」
「人斬りと一緒になったって、いいことなんて一つもないんです」

…そうはっきりと言い切った総司くんの言葉が脳裏を過る。
でも、やっぱり好き合ってる二人が一緒になれないなんて、そんな切ないことあっちゃいけない。
……よし、ここはおねーさんが一肌脱いでやろうじゃねぇか!
さっさと帰って作戦考えよう。
暇な毎日に少しだけ楽しみができたかも。うふふん。

鼻歌を口ずさみながら半ばスキップじゃねーのかっていうくらい軽い足取りで屯所へと急ぐ私。







……この時の私は知らなかった。

数時間後。後世に伝えられるほどの大事件を新選組が起こすことを。
その大事件が時代を揺るがすことになるなんて。


そして私は目の当たりにすることとなる。

志に命をかける男達の戦いを。
その命が散る様を――…






***



「戻りました〜…っと」


…おかしい。
門番に軽く会釈をし、屯所内へと足を踏み入れると明らかに何かがおかしかった。
しいて言えば雰囲気。雰囲気がピリピリしているのを肌で感じた。
それにいつもは必ずする人の気配もほとんど感じない。奥の離れにでもいるのだろうか…

やっぱり何か事件でも起きたのかもしれない。まだ歳さんたちは帰ってきていないのかな。
…とりあえず、この酒を勝手場に置いてこよう。皆の姿を探すのはそれからでいい。

不思議に思いつつも表玄関を通り抜け、勝手場の暖簾を潜る。
まわりをキョロキョロと確認しながらそっと通徳利を仕舞うその動作は明らかに不審者のよう。誰にも見つかりませんように…なんていう淡い期待はやはりお約束のように打ち壊され。


「あれっ?由香」

「一体何やってんだ?」


私の背中に聞き覚えのある声が投げ掛けられたのだった。



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