壬生狼と過ごした2217日

□どうしてこうなった?
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「ふわぁぁぁ…」


かったるい講義を終え、大きなあくびと共に大学をあとにする。

今日もやっと終わった…
しかし興味がない講義っていうのはなんでこうも眠くなるものなのか。
眠い目を擦り、iPodのイヤホンを耳にかけながら颯爽と歩きだす。
そういや今日は業界関係の男らと合コンだったっけ。かっこよくて金持ちの奴がいればいいけどなぁ。まぁ、なかなか現実は厳しいからな。あんまり期待しないでおくか。


…野村由香、22歳。
どこにでもいる女子大生だ。
将来の夢…?
とりあえず大学行って、4年間遊んで。
そんでまぁまぁな上場企業にでも就職できればラッキーっしょ。
やりたいことも見つからない。
聞きたくもない講義に出席し、大学が終わればバイトにコンパの平凡な毎日。
テキトーに友達とつるんで、テキトーに彼氏作って。
サークルや部活、夢に向かって頑張っている人達に、どこか卑下した視線を送る、捻くれた私―…

こんな私で大丈夫か…?
なんて思ったりするものの、危機迫るものもないし、今までそうやって生きてきたものをいきなり変えられるわけもない。
いや、変えなくても今まで生きてこれたから、きっと私はずっと一生このままだ。

雑踏に紛れて歩いてみれば、私はその渦に巻き込まれ這い出すこともできない。

息苦しい―…

すれ違いざまに肩にぶつかるサラリーマンに顔をしかめながらも私はそれでも前へと進む。
この渦の中を出られる日はいつか来るのだろうか。

歩きながらふと空を見上げる。
高いビルの間から見える空は、なんだか今にも泣き出しそうな灰色で。
そういや青い空なんてここのところ見ていない気がする。
まるで穢れた私の心のようだよ、なんてな。
見上げ続けていればこのまま吸い込まれてしまうんじゃないかって。
この空の彼方には何があるんだろう。もしもどこかに通じているのならば、この渦から私を救いだして…
ああ、そんなメルヘンなこと思ってしまうなんて、最近疲れてんのかな、私ってば。

そんなことを考えながらも一歩一歩足を踏み出せば、ふとポケットの中に入っているケータイが振動する。

メールかな…?
ケータイを取りだし、歩きながらメールボックスを確認していると…


「おい、お前―…!!!」


突然後ろから大声で呼び止められた。


「え…?」


でも…
振り返る間もなく、私の視線の先には歩道を乗り越えてきたトラックが…


「嘘……」


呟いた言葉がまるで他人の言葉のように聞こえた。

あー…、私、死ぬのか…
あっけない…短い人生だったな…
こんなことだったら……昨日我慢しないでケーキ食べときゃよかった……

こんな時まで冷静に考えてしまいながらも、私はこれから降り懸かるであろう衝撃に備えて目を潰った。



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