壬生狼と過ごした2217日
□垣間見えた優しさ
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「由香、明日お前も大坂行くか!?」
「は?おおさか?」
おおさかって大阪だろうか?
おばちゃん皆、虎柄の洋服を着てるっていう…
「えぇと芹沢さん…。何しに行くんですか?」
「金子だよ」
「きんす…?」
「貧乏所帯にもほとほと困ったからな。大坂の豪商、鴻池善右衛門に金を借りに行くんだよ」
うすうす感付いてはいた。
春の日差しも暖かくなっていく一方なのに、壬生浪士組の皆はいつまでたっても綿の入った真冬に着るのであろう羽織袴を着ている。
しかもそれは皆ボロボロだ。
そう。皆、お金がなくて新しい服も買えないのだ。
この頃になると、八木さんの善意でお米は毎日食べれたものの、おかずは一品だけ。しかも大根の葉のお浸しだけという、悟りを開くにはもってこいな食事が膳に並ぶ日も少なくなかった。
まぁ私は居候させてもらってる身。
米粒ほどの文句も言えない立場なわけです、はい。
とにかく…
この時代に来てから、私はこの屯所を出たことがない。
地理を覚えてからじゃねぇと、街中には出さねぇ。勝手に出たらどうなるかわかってるんだろうな。あ?
…という歳さんの脅迫じみた言葉によって、私は屯所内だけでの生活を余儀なくされているのだ。
総司くんが屯所付近の地図を書いてくれたが、私が読めたのは「茶屋」という言葉だけで、それを隣で聞いていた左之さんは「さすがだな」と感心していた。
とにもかくにもこれは絶好の機会かもしれない。
「芹沢さん。おおさかには誰が行くんです?」
「俺だろ?野口に平間に平山。山南、永倉、原田に井上だ」
芹沢さんと二人きりだったら絶対に行かないと思っていたけど、そのメンバーなら大丈夫そうだ。
よし、行こう、おおさかに!!
「ちなみに聞きますけど、おおさかには何に乗って行くんですか?籠?舟?」
「……お前さん、人の話聞いてたか?」
芹沢さんが盛大な溜息をつくと、私の隣で新八さんがガハハッと笑った。
「由香ちゃんよ、籠や舟を借りる金があったらわざわざ大坂まで金を借りに行かねぇよ」
「え…?てことは……」
「歩きだァ。文句あっか」
私は即答で大坂行きを丁重にお断りしたのだった。
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