壬生狼と過ごした2217日

□男が鬼になる時
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その日。
朝から男達の様子がいつもと違っていた。

揃って一室に集まり出てこない。
何事かと好奇心からお茶を持っていくも、一同厳しい顔をし、いつものように私に話を振ってくることもない。
それどころか私がいると会話が途切れてしまい、部屋は静寂に包まれたまま。

うん…
私、明らかに邪魔者だよね…
まわりを見渡せば、新八さん、はじめくん、平助くんらは視線を逸らし
近藤さんや山南さん、総司くんや左之さんはなんだか浮かないような顔をし
そして歳さんからは「外せ」と言わんばかりの冷たい視線を送られ、私は仕方なくその部屋をあとにしたのだった。

スパンと閉めた襖の向こうで、再び話し合いが始められたのがわかる。
そんなに私に聞かれたくない話なのだろうか。

…気になる。
でも立ち聞きなんて、人としてのモラルが…
というか立ち聞きなんかしたら一発で気配でバレるだろうし。
そしてその後、歳さんの雷が落ちることは必至だろうし。

…ちぇっ…諦めるか…


「あ〜あ…部屋に戻るかな…」


うーん…と伸びをして部屋に向かって歩き始め、最初の角に差し掛かったところで、向こう側からボソボソとした話声が聞こえた。


「……のか?」

「…祇園…山の緒で……」


なんだか内緒話?のような感じだけど…
私、このまま進んじゃっていいのかな?
まぁ、進んじゃうけど。

そして角を曲がったところで、どうやら会話をしていたらしい3人の顔が飛び込んできた。


「…あれ、楠くん!……と…御倉、さん…と……」


あと誰だ?名前なんだっけ?
でも間違いない。
もう一人も長州天誅組だった……
意外や意外。
なんでそんな人達と楠くんが一緒に…


「あ…!あ、由香、さん!」


明らかに彼は冷静をかいている。
そんなにこの人達としていた会話がまずいことだったのだろうか。
それよりも、本当、なんで一緒に……


「こんにちは、由香さん。御倉伊勢武と申します。それとこっちは…」


突然。
私の前に立ちはだかるように、御倉、と認識していた男が自己紹介を始める。
わざとらしい挨拶もそこそこに、御倉、はもう一人の…
一番眼がギラついてる男に挨拶を促す。
そして…


「これはご挨拶が遅れました。私は荒木田左馬之亮と申します。以後、お見知りおきを」


荒木田。
そうだ、なんて取って付けた様な名前なんだと噴き出した男だ。
この男が…
荒木田は深々と頭を下げていた。




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