壬生狼と過ごした2217日

□芹沢と新見
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「なぜ…なぜ新見に腹を斬らせた」


え…?
芹沢さん、今なんて…


「それは芹沢さん、あなたもわかっているはずです」

「………」


変わらない歳さんの淡々とした言葉に、芹沢さんの眉間のシワはさらに深く刻まれる。


「……ならばすべて声に出して言いましょうか。一つ、隊務を疎かにし、遊蕩にのみ耽った。一つ、度々民家を襲って強談し、隊費と称して多額の金子を奪った。一つ…」

「もういい!!」


芹沢さんの怒号に、部屋の中は静まり返った。


「…あいつのしたことは確かに法度に反することばかりだ……だが新見は局長だった。目を潰ってもよかったんじゃないか?」

「芹沢さん。それじゃ法度の意味がなくなる。上の者だけ見逃せば下の者に示しがつかない。……それともあれですか?右腕を削ぎ落とされた虎は百姓が怖いとでも?」

「糞餓鬼が…!何を…!!」


歳さんの挑発とも取れる言葉に芹沢さんは瞳に怒りをともし、刀の柄に手をかけようとした。
しかし、一瞬にしてその場にいた者が刀の柄に手をかける。
それを見た芹沢さんは、チッと舌打ちをし無言で部屋を出ていってしまった。

部屋は何事もなかったかのように、しぃんと静寂を取り戻す。
近藤さんや山南さんらはホッとした表情を見せたのだけれど……


「…な、に?新見さん…死んだの?…切腹、したの?」


ボソリと私の口から出た言葉は震えていた。


「えぇ。祇園の山の緒でね。立派な最後でしたよ」

「祇園の…山…」


私の質問にそう答えて、ニコリと微笑んだのは総司くん。
その笑顔には、芹沢さんが大和屋焼討をしたときに総司くんが見せた殺気が見え隠れしていて……


「そういえば由香さん、なんで荒木田さんと一緒にいたんです?」


息、が…上手くできない……
喉がカラカラになって…
私はゴクリと喉を鳴らした。


「た、またま…井戸で会って……」


…仲間、に…切腹させたんだ……
昨日まで…仲間だった新見さんに……


「井戸?」

「ごめ…なんだか気持ち悪い…」


私は総司くんの質問にきちんと答えることもせず、フラフラと部屋をあとにしようとした。

この時。
ほんの少しだけ歳さんと目が合って…
でも歳さんは、また私の知らない鬼の眼をしていた。

その鬼の眼に…
総司くんの修羅のような笑顔に…
仲間に切腹させた皆に…

私は嫌悪感とともに心底恐怖に似た何かを感じ、その場をあとにした。




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