壬生狼と過ごした2217日

□春風の悪戯
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「……ん?由香?」


ぽかぽかと春の日差しが暖かくなってきた穏やかな午後。
ばったりと廊下で男と顔を合わせた。

ああ…私ってばまた一人の男を虜にしてしまうのね。なんて罪な女。


「なんかいい香りすんな。香でも焚いたか?」

「…いえ」

「じゃあなんだ?」

「うふふ…」


久しぶりに下ろした髪をさらららんと靡かせる。くるんと回ってみれば自分でもわかるくらいにいい香りが辺りに広がった。


「シャンプー、しちゃいました」

「…しゃんぷー?」


きょとんと目を丸くする左之さん。
……そうよね、知らないよね、シャ・ン・プ・ー、なんて。

驚くことにこの時代では毎日髪を洗う習慣がない。マジかよと思いながら、我慢すること数日。そしてそれが限界に達した今日。むしろ今日までよくぞ我慢したと自分を誉めてやりたい。お風呂を炊くという八木さんに全力でお願いして、ついに使ってしまった。文明の進化という名のシャンプーを。


「…いい香り、ですかね」

「ああ、いい香りだ」

「さっき平助にも会って、」

平助にも会っていい香りだって言われちゃって〜…なんて、得意気な言葉を発することはなかった。


「…香りに誘われる蝶みてぇだ」


左之さんが色気ムンムンに私の髪を掬い、そっと口、口、口付けたから…////!!しかもなんじゃその甘い甘い口説き文句もどきは////!!!

言葉を失い、顔に身体中の熱が集まるまで時間はかからなかった。


「さっ、左之さんんん////!?」

「馬鹿。冗談だからそんなに怯えるなよ。採って食いやしねぇから」

「////!!」

うああああ////!な、なんだこの色目を使った上目使いは////!!!冗談なんかじゃない!絶対冗談なんかじゃないよね!?

しかし左之さんは、動揺を隠せない私の気持ちを知ってか知らずか。
私の髪をスルルと指から溢し、計算尽くされたというか天性のイケメンスマイルを覗かせた。


「しかし…未来の男ってぇのは想像してる以上に誘惑が多いんだな」

「え?え?」

「だってそうだろ?」

「なん…」

「…由香みてぇな色気のある女が手の届くところにいるんだからな」

「////!!!」


そうして私の純情なおとめごころを鷲掴みにした男は、最後にこれでもかという位最大破壊力の爆弾を落としていったのである。

あ、採って食われてもいいなんて思ったことは内緒ですはい。



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