うたぷり 長編

□オーシャン・ラヴ・モーション 美風藍の場合
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 茹だるような暑さが続く8月の初旬。ST☆RISHのみんなと先輩たち4人+林檎ちゃん(保護者的ポジション)で海へやってきた。
きっかけは、翔ちゃんが「海に行きたい!」とみんなに誘いを持ちかけたことだった。さすがの翔ちゃんもこの暑さには耐えられなかったのだろう。単純に夏=海という思考からかもしれないが。
 水着に着替え終わり浜辺を歩いていると、もう他のみんなは早速海に入り、楽しそうにそれぞれ遊んでいた。
日差しを遮るものがない海は、やはり暑く、私もそろそろ海に入って涼もうかなどと考えていると、ふとある人物が目に入った。
パラソルが作り出す日陰の中に座っている“人”。きれいな水色の髪がわずかな風によって揺れている。
(藍ちゃん先輩だ)
みんなが歓声をあげながらビーチボールやら水のかけ合いやらをしている姿を、ただじっと見つめている彼の瞳は、なんだか切なげに見えた。
(そうか、先輩は海に入れないから・・・)

 彼はアンドロイドだ。いくら防水機能が付いているからといっても、海に入ってしまえばたやすく壊れてしまうだろう。
せっかく海へ来たというのに一緒に楽しむことができないのは、失礼ながらかわいそうだと思ってしまった。
「先輩、熱いですね」
さりげなさを装いつつ、隣へ腰掛けた。
せめて私が傍にいれば、と考えたのだ。彼にとっては、ただの偽善かもしれないけれど。
「確かに暑いけど、僕にはこれがあるから」
ちらりと見せた保冷剤。
「ああ、なるほど」
納得を言葉にした後、会話は途切れてしまった。お互い無言のまま流れる時間と海特有の騒がしさとはまるで別世界のような空間に浸る。
沈黙を破ったのは、意外にも彼だった。
「名無しもあっちで遊んでくればいいんじゃないの?」
「―え?」
だから、僕となんかといないであっちで遊んでくればって言ってるんだけど」
思わず移す視線。こちらは見ずに前を向いたまま、表情は別段無い。
「わたしは、いいです」
瞳に映っていないと分かりながらも、自分なりのとびきりの笑顔を向けた。
「馬鹿なの?」
ちらりと私を見て嘲るように、押しつぶすように、つぶやいた。何のためにここに来たのと、言うように。
私がどう応えようか考えていると、もうすっかり聞き慣れた声が鼓膜を揺らした。
 
 「二人ともー!楽しんでる?」
「あ、翔ちゃんに那月くん」
心なしかいつもより明るい声と表情の二人は、片手にビーチボールを持っていて、楽しんでいることが一目で理解できた。
「二人で仲良く休憩中ですかぁ?ラブラブですね!」
「えっ!?そ、そんなんじゃ・・・」
からかう二人に、弱く否定した。私と仲良しだとかラブラブだとか言われるのは、彼にとっては不快なことなのではないかと思ったのだ。
嬉しいと感じて、口元が少し緩んでしまったなんて、絶対に言えなかった。
戸惑いを隠しきれないままいると、那月くんがニコリと笑い、先程やっていたビーチボールのについて私に話し始めた。
その間、翔ちゃんと藍ちゃん先輩は、ヒソヒソと何か会話していた。どんな話をしていたのかは、聞こえなかったために分からない。
 
 しばらくして、林檎ちゃんに日焼け止めを塗るのを手伝えと半ば無理矢理二人は連れられていってしまった。
再び、二人きりである。
何を話そうか考えていると、はっきりとした、それでいて小さい声が聞こえた。
「ありがとう」
声の主は、明らかに隣の人。しかし、その言葉を発した意図が掴めず、なにも応えられない。ただ呆然と、彼を見つめているとまた口を開いた。
「勘違いしないで。翔に言えって言われたからだから。でも、僕のためにここにいてくれてるのは事実だから・・・ありがとう」
驚きと嬉しさが溢れた。まさかそんなことを言われるなんて予想もしていなかったから余計だ。
「ううん。こっちこそ、ありがとう!」
彼の顔は不思議と赤く見えた。
暑さのせいか、それとも―?




















(君のせいだよ)

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