うたぷり 短編

□気にしたら負け
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彼は私に無関心だ。
恋人同士だというのに、共にいる時間はあまりにも短い。
例え二人きりになったとしても、嶺二くんや蘭丸くんがそこを通れば、私なんてお構いなしにそちらへ行ってしまう。
たまらなく寂しい気持ちになってしまうが、決して彼にそう告げたことはなかった。
嫌われるのが、怖かったのだ。
ワガママを言ってしまったら、きっと彼も愛想を尽かす。それだけは避けたかった。
“愛”はなくても、近くにいたかったから。

今日もまた、、彼は嶺二くんと談笑していた。
私だって目の前に居るのに、相手にすることはない。
思わずキッと嶺二くんを睨んでしまったが、すぐにやめる。
嶺二くんは何も悪くない。悪いのは、勝手に嫉妬している私なのだから―。
数分後。
嶺二くんは用事があるからとその場を後にした。二人きりになる。
「なに?その顔」
「・・・別に」
もう隠すことすら嫌になり、不機嫌を露わにする。
このままだと嫌われてしまうと感じながら、表情を変えることができなかった。
「別に、って何さ?理由もなく機嫌を悪くされても困るんだけど」
その物言いにイライラした。もう、抑えることができない。
「藍ちゃんが嶺二くんとばかり話してるからでしょ!?」
思いを解放したすっきり感と、どうしようという不安感に襲われる。彼は、呆然とこちらをただ見つめている。
数秒後、彼は口を開いた。
「もしかして・・・嫉妬してたの?嶺二に?」
言葉にされてしまうとなんだか恥ずかしくて、思わず頬を紅く染める。
「図星、か」
彼が下を向く。本当に嫌われてしまったのかという不安が大きくなっていく。
「ふふっ。まさか名無しが嫉妬するなんてね。今まで何も言ってこなかったから、てっきり気にしてないのかと思ってたんだけど・・・」
不敵な笑みを浮かべてそう言い放つ。何だが嫌な予感がする。
「ねえ、もしかしてワザとだったりしないよね・・・?」
彼は鼻で笑った後、私をそっと抱き寄せ耳元で「残念でした」と囁いたのだった。

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