うたぷり 短編

□Sweet×Kiss
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 とある夜。
仕事を終え帰宅すると、カミュが本を読みながらコーヒーを飲んでいた。
邪魔をされることを嫌う彼だから、控えめな声でそっと「ただいま」を言う。
何も反応されないと思っていたのだが、カミュはちらりとこちらを見て「ああ」と声にした。
今までになかった行動に思わず頬が緩んだ。
そんな幸せに浸りながら、家でくつろぐ準備を始めることにした。

 部屋着に着替え、ホットミルクをつくった後もカミュは本を読んでいた。その隣に腰をかけ、ホットミルクをテーブルに置く。
そこで、コーヒーカップには溶けきれなかった砂糖しか残っていないことに気づいた。
「カミュ、コーヒー入れましょうか?」
「ああ、頼む」
視線こそこちらになかったものの、返事をもらうことができた。
早速、カップを持ってキッチンへと向かう。
もう、コーヒーを入れることにもすっかり慣れてしまった。
一度カップを洗い、手早くコーヒーをつくる。
コーヒーの入ったカップと角砂糖の入った瓶をテーブルに置いた。
「できました」
「すまない」
ようやく本を閉じ、彼はそれを一瞥する。そして、瓶の蓋を開けて角砂糖をコーヒーの中へと入れだした。
「あ、あんまり入れすぎてはダメです!体に悪い」
「黙れ。自分の体のことは自分がよく分かっている」

聞く耳など持たず、カミュは10粒の角砂糖を投入した。混ぜてもやはり溶けきれずに、スプーンによってジョリジョリと音が出ている。
スプーンを置いて、カミュがコーヒーを口に含んだのを合図に、ワタシもホットミルクを飲み始めた。
コーヒーをつくる時間のおかげで、いい具合に冷めていた。
「ミルク、やはり美味しい」
何度飲んでも、ミルクは美味しい。自然と笑顔になる。
「やはり少し足りなかったか?」
カミュはこれでもまだ足りていないようで、一粒ずつまた投入している。
もう慣れてしまった行動だが、未だにどうして美味しいと思えるのが不思議だ。
「うむ、丁度いい」
やっと納得したようで角砂糖を入れるのをやめ、ゆっくりと飲み始めた。
合計して15粒。カミュの味覚は一体どうなっているのでしょう。
「―愛島」
急に名前を呼ばれ、カップ持ちながら彼を見る。
「―!?」
不意打ちだった。気づけばワタシは、カミュに唇を奪われていた。
それも軽いものではなく、深い深いもの。息ができなくなってカミュの肩を押すと、ようやく唇が離れた。
「・・・っ!いきなり何をするのですか!?」
「気分だ」
「口の中が甘い」
「よかったではないか」
あんなコーヒーを飲んでいたのだ。口の中は生まれて初めて味わう甘味でいっぱいになっていた。
ワタシが彼を睨むと「そんな顔で睨まれてもな」とコーヒーを飲み干した。
初めてワタシは自分の顔が赤くなっていることに気がついた。

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