うたぷり 短編

□want to know
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 イライラする。
今の僕の感情を一言で表すのなら、これが一番適しているだろう。
その理由・・・それは、恋人である名無しが嶺二に呼ばれて部屋を出て行ってから戻ってこないからだ。時間にして10分01秒。
話があるにしても長すぎるんじゃないの?
僕を置いて二人で談笑に浸っているなんてどういうことなの?馬鹿なの?
嶺二のことだからきっとないだろうけど、もしかして浮気してるとかじゃないよね?
様々な考えが浮かんでは消えて、イライラが増していく。
もういっそ連れ戻してしまおうかと良からぬことを思っていると、扉が開きようやく彼女が帰ってきた。
「藍ちゃん、ごめんね。話が長引いちゃって・・・」
苦笑いしながら歩いてくる。せっかく帰ってきたというのに、それを見て余計イライラしてしまう。僕がどんな気持ちでいたかも知らないで。
「―名無し」
呼びかけて、彼女がこちらを見て微笑んだのを確認した後、僕は床へと半ば強引に、それでいて優しさを持ち寄りながら押し倒した。
「えっ!?ど、どうしたの藍ちゃん!」
驚きを露わにしながら問われる。無理はないだろう。
「さっき、嶺二と何話してたの?」
あくまで冷静に、僕は問い返す。心内はとんでもなかったけれど。
「そ、それは・・・」
口ごもって話そうとしない彼女に、またイライラは増していく。
「僕には言えないような話しなわけ?もしかして、浮気?」
「ち、違うよ・・・!」
今のはちょっといじわるしすぎたのかもしれない。しかし、いつだって最悪のケースは考えておくべきことなのだ。
「じゃあ、何?」
彼女も完全に追い詰められたようで、ついに観念して口を開いた。
「・・・藍ちゃんのこと、聞いてたの」
「―え?」
話が上手く理解できない。
「わたし、まだまだ藍ちゃんのこと知らないから・・・。嶺二君に聞いたら分かるかもって思ったの」
「そんなの、僕に直接聞けばいいじゃない」
「は、恥ずかしいでしょ!」
顔を赤らめて反論する彼女に思わずドキリとする。
「ふふ・・・。名無し、かわいい」
そう言って僕は彼女に口づけた。顔は相変わらず赤いまま。
「大丈夫だよ。僕の全部、教えてあげる」
耳元で囁くと、彼女は無言でうなずいたのだった。

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