総悟受

□狂い咲き
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春をまつ桜の木。

沢山の桜並木。そんな中に、一本だけ咲き誇る桜があった


[狂い咲き]


雪で世界が白く美しく染まっていた。雪はまだまだつもる。


「…さみ。はやく帰りやしょうか」


まだ降り続く雪をみて、そう呟いた。俺のいる場所だけ、白が紅にそまる。


純白の雪が
紅い血色に


なんて、綺麗。
白と紅。二つが溶け合い、綺麗な桃色ができる。



――あぁ、なんて失態だ。


俺とあろう物が、斬られるなんて。


なんとか取り逃がしはしなかったが。
相手の返り血と、腹部から流れ出る血が混ざり合う。


混ざり合って、ゆっくりと地面に跡をつける。



「…帰るのも、ひと…くろ…うですねぃ…」


頭がクラクラする。
前がよくみえない。


ちゃんと真っ直ぐにたってる?
屯所は、どっち?
来たときの足跡も、雪に消されてる。



とりあえず、自分が今むいてる方に脚をだした。刀を杖のようにして

刀は武士の魂…だっけ?


そんなの、かまわない。
杖にもつかえない魂なんて、いらねぇや。


脚が雪で冷えて痛い。いや、感覚がもう薄れてさえいる。

あ、俺。死ぬのかな。なんて。


もういいや。あきらめよう。
みっともなく、生にしがみつくなんて。


そう、おもっても、脚がとまらない。


あぁ、なんて滑稽な。



死んでも、いいとおもってたのに。
なんで、ですかねぃ。


死ぬ前に、
せめて




土方さん。あんたに



「…あい、たい」


土方さん
土方さん
土方さん


いますぐ、アンタに会いたい。あって、抱きつきたい。死ぬなら、アンタの腕の中がいい。



「…土方、さ…ん」



ガクッと、膝から崩れた。
…たてない。あぁ、もうだめか。



諦めて仰向けにねっころがる。
…白い、雪のなかに桃色の桜が、さいていた。



「…狂い…咲き?」



土方さんの腕のなかには劣るけど、こんなきれいな景色で死ぬのも、悪くないかもしれない。



桜の花びらを取るように腕を上にあげた。

土方、さん。
大好き、でした。
愛して、やした。
アンタは、俺をあいしてくれてやしたか?


あぁ、本当に最後か。


次は、そうですねぃ
猫にでもなりたいです。
そして、今度こそアンタの腕の中で死にたい。


土方さん
さようなら

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