短編
□淡光
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「…おのれ、家康っ!」
「なんだ、三成。」
「貴様ぁっ!」
石田の叫びが戦場に響きわたった。普段は鈴のように愛しい声が、このときばかりは嫌いになる。
「家康っ、家康、いぇやすぅぅぅっ!」
その、光の男の名しかよばず、その男にむけるその声が、我は嫌いだ。
「ははっ、楽しいな、三成。これでお前と手合わせできるのも最後だ」
「五月蝿いっ、なぜ裏切った貴様が昔を愛しくおもうっ!なぜ、そんな事をいうっ!」
そう言う石田は泣きそうな顔をしていて。。なぜ、そのような顔をする、石田。…本当はわかっている。
大谷には、最大の信頼を
家康には、憎しみと虚しさを
だが、我には何もない。ただ、ただ。なにも認められていない。石田の中に我はいないのだ。
「家康!」
また石田が奴の名を呼んだ。
憎き太陽の名を呼んだ。
嗚呼、嗚呼
日輪よ、我の日輪よ
我は輝いておらぬか
闇とまでいわれる石田さえ
石田さえ、淡く輝いているのに
我は、輝いてはおらぬか
淡光
(嗚呼、石田の淡い光さえ)
(我には届かぬのか)