短編
□さよなら
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やめてくれ、家康。
その声がお前に届くことはきっとないんだろう。わかってはいるけど、何度も何度も口を動かした。
傷だらけの私をみて
一人の男は可哀想だといった。
私の首についた赤い首輪をぶちり。と引きちぎり、私を連れ去る。
懐かしいような、昔の家康に似た温もりに、なんだか嬉しくて身を寄せた。
昔の優しかったあの男はいないと知りながら。罪悪感で胸が締め付けられた。
「…に」
先の無くなった舌で何年ぶりかに鳴いてみた。
「にゃー…」
(さよなら)
(愛しき人)