femme fatale

□一難去ってまた一難!
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先週はとんでもないことを経験した…

世那は新たに体験申し込みをした空手教室へ向かいながら、夢とも思える体験を思い返していた。

どこをどう間違ってあの少年がこんな年上の自分に恋心を抱いたのか、年下という男性を恋愛対象に加えていなかった世那には、到底理解できない。

ただ、この経験が、世那の心の隅に『年下の男の子も、案外いいかもしれない』という、漠然とした許容をもたらした事は確かだった。


「あれは一時の気の迷い! 気にしない気にしない!! 今日は空手だし…怖いけど楽しみだな」


世那は道場が見えるにつけ、答えの出ない考えを振り切るように首を横に振った。





********





こちらも自治体の空手教室、先週の剣道教室と大差なく、小さな子供から大人までが揃い、腰元を締める帯の色は様々なれど、皆真っ白な空手衣に包まれている。

またも体験する分野を間違えたと後悔するも、これはこれで日常的に滅多にお目にかかれない光景に、世那は緊張を隠せず固唾を呑んだ。


「こんにちは!」


ぼーっと突っ立っていた世那を見付け颯爽と走り寄ってきた大柄な人物が、にこやかに声をかけてくる。

一瞬、飛び上がらんばかりに驚いた世那の表情を見て、その男は可笑しそうに面に笑みを乗せた。


「驚かせてしまって、すみません。自分はこの教室の講師をやらせていただいています、新堂といいます。見学ご希望の方ですよね?」


いかにもスポーツマンを体現したような爽やかさに、些か面食らった世那だが、すぐに丁寧に頭を垂れると非礼を詫びる。


「申し訳ありません、今までこういったものに触れる機会がなかったものですから、正直面食らってしまって…。今日は、見学させていただきにあがりました。よろしくお願いいたします」


ご丁寧に恐れ入ります、と返した新堂は、道場の一角の安全そうなところを世那に指示すると、空手衣を着た女性を呼び紹介した。


「こちらが女性向けの護身をメインにした空手を教えている者です。先ほどお伝えした一角で道場生に教えてますので、前向きに検討してみてください。では、失礼します!」


新堂はそれだけ言うと、大声を張り上げながら道場の注目を集め離れていった。


「今は結構、護身目的で空手を学びに来る女性が多いので、もし今回見学してやってみてもいいと思ったら、ぜひご一緒しましょうね。今日は、そういったもの抜きで、とにかくどんなものなのか見ていってください」




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