「そんな古い時代の話…今更持ち出してどうする」
影熾は静かに口を開いた。
「しかし若………この時代ですから、周囲もそれほど過去を知る者もおりませんが、過去を調べ上げても、その家の娘に関わった者は非業の最期を迎えていることは事実」
淡々と答える側近の金剛の言葉を、影熾は苛立たしげに遮った。
「その女欲しさに他の男達が手を下していたと考えてもおかしくはない。…今は現代だ、一般的にはそう考えるだろう。裏を知るものが推測する選択肢には過去も多大な影響を与えるだろうが………まぁ…万が一の事態が起ころうとも…こちらとしては望むところだ」
影熾の言葉に、金剛が困った表情を浮かべる。
「……美しい女性がご所望でしたら、若のお立場であれば選り取りみどり。危険ないわくつきの女など何も………」
そんな金剛をちらりと見遣った影熾は、不敵な笑みを口元に浮かべ言い放った。
「危険ないわくつき、だと? 聞いて呆れるな、金剛。…その女は俺にこそ相応しい。混乱に乗じて手に入れる……至急手配しろ」
驚きに目を見開いた金剛が異を唱えるも、影熾は耳を貸さず低く呟いた。
「身も心も捕らわれるほどの魔性の女………ならばこそ、是が非でもこの手に……他のただの男になどくれてやるものか…」
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頭脳派を多く抱えているにも係わらず、非情な武闘派で名を馳せる組織型広域暴力団・琥龍会が手を打ったと流れ聞き、泉條 凱は感慨を深めていた。
「あの影熾が“傾国の美姫”を得るために動いたか………」
溜息混じりに呟いた声に反応を返したのは、有能な左腕・青海。
「社長……琥龍様はご幼少の頃からのご友人では…? いかが致されましたか?」
ちらっと目線を一瞬向けたのみで、青海は机上のパソコンから顔を外さずに問う。