激しい眩暈を感じながら、詩緒流はうっすらと眼を開いた。
浮かぶのは紅蓮の炎と、視界を奪う黒煙。
悲鳴と…怒号と……絶望………
「目が覚めたようだな」
不意にかけられた声に、詩緒流はビクリと身を震わせた。
「……お前があのいわくつきの女か………早々に手を打っただけのことはあったな」
低く魅惑的な声に誘われるように顔を向ければ、すらりとした長身の男が壁に凭れて立っている。
その整いすぎた面には、鋭い獣のような双眸が光を放っていた。
「…あ……あの……」
何を話したらいいのか、どう話したらいいのかわからず、詩緒流はしどろもどろに口を開く。
「……………」
男は身を起こし、何も答えないまま詩緒流へと脚を向けた。
長い脚が歩を進める、その洗練された身のこなしに詩緒流は釘付けになる。
「……危険だな………お前の香りは…男を狂わせる」
形のいい唇がそう奏でるのを、詩緒流は至近距離で目に映す。
「……………呪われた血とは面白い……笑わせてくれる」
感情を出さないその瞳が幾許か歪んだような気がした刹那、さらさらと意外に柔らかな髪と、その間から垣間見える伏せられた睫の長さ、男にしては肌理の整った肌が、詩緒流の視界を奪った。
「っ!」
驚きに息を詰める間もなく、柔らかな感触が唇に届く。
与えられているのが口付けだと気付きうろたえる唇の隙を縫って、男の舌は滑り込み詩緒流の口腔を支配する。
「っ…ん!」
弱弱しい抵抗など意にも介さず、男は十二分に詩緒流を味わうと、静かに唇を開放した。
「……甘い…」
発せられたのはただそれだけ…
男の眼のうちに滾る情欲を感じ、詩緒流は湧き上がる恐怖をありありとその目に宿す。