「…………仕事熱心なのもお前のいいところだが……話をするときくらい人の顔を見ろ」
呆れ加減な凱の声に、無表情のまま青海は顔を上げた。
「……申し訳ございません。…しかし、このご時世に“傾国の美姫”とは。穏やかではありませんね」
余り申し訳ないとは思っていないような事務的な謝罪の後、眉根を微かに顰めた青海が凱へ問い掛ける。
「…名だたる旧家、確固たる地位を持つ者なら誰でも知っている。…………だが……禁忌とされたそれを、あいつが…………一体どういうつもりなのか………」
まるで独り言のように呟きながら深い溜め息をつく凱に、青海はゆっくりと近付き静かに口を開いた。
「調べさせましょう………どのような禁忌なのかは分かり兼ねますが、社長がそのように思案なされるのであれば…一刻も早く明確にしなければ、経営が滞ります」
「あくまでも私的なものだ…」
やや自嘲気味に笑みを浮かべた凱の顔を食い入るように見つめ、青海は丁寧に礼をした。
「………かしこまりました。本日中に必ず」
それだけを言うと、踵を返し部屋を出て行く。
「………琥龍を潰すつもりか…? 影熾………何を考えている…?」
吐き出された言葉は、誰に聞かれるともなく、高層ビルから望む景色に紛れていった。
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「ちょうどいい人形だ…家族は父親と母親の二人だけ。事故に遭遇し死亡、残された娘は天涯孤独………いや、3人とも事故死か?」