揺ぎ無い意思を宿した、吸い込まれそうなほどの深い瞳。
強い自信からくるのであろう、悠然と弧を描く唇。
この世のものとも思えぬ美貌が女々しさを微塵も感じさせない所以は、この二つが屈強な男臭さを放っているからなのだろう。
「………お前は俺のものだ。例え誰の元へやられようとも……お前は俺だけのもの…覚えておけ」
獲物を見据える野生の獣のような鋭い眼差しが、詩緒流に目を逸らす事すら許さない。
捕食される寸前の射竦められた小動物のように、詩緒流は微細な震えを起こし目を潤ませた。
「………産まれながらに魔性とは………自覚が無いだけに哀れなものだな……」
男は物憂げに目を細めて、詩緒流の唇の程近くで言葉を紡ぐ。
低く魅惑的な声が、直に唇に触れているような錯覚を覚え、詩緒流が目を伏せれば…
まるで慈しむかのような柔らかな口付けが与えられた。
その甘さと切なさに目を開けることもできず、詩緒流はそっと涙を頬に走らせた。
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「失礼いたします。…御落胤の件で調査がまとまりました。10分ほどお時間よろしいでしょうか」
側近の青海だからこそ許された、ノックも入室の伺いも簡略された所為。
「……さすが…早いな、青海」
凱はどこか苦笑を匂わせた、満足げな笑みを浮かべた。