愛DOLL -short stories-
□愛DOLL -explain-
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日本には、世間一般にはまったく知らされていない秘密組織がいくつもある。
その中の一つに、政界・財界・業界公認の、専属性交渉組織があった。
法律や秩序、常識の通用しない、極秘の秘密組織、『愛DOLL』である。
正式名称は要人しか知り得ないが、その存在を知る者達からは、そのものズバリ「アイドル」だけでなく、フランス語と英語を掛け合わせ「ラブダル」だの、ドイツ語を交え「リーベンダーム」だのと、それは多岐に亘る様々な隠語で称されていた。
その『愛DOLL』だが、内部は全国各地から公的機関を駆使して極秘裏に集められた、年齢層も様々のまったくの素人を派遣する組織だ。
誘拐や失踪などの未解決難事件として処理され、捜査は継続しているように装いながらも、実情は“人形”として身を窶す。
在籍する彼女達は、戸籍などの何もかもを剥奪され、生きた痕跡すら一欠けらも残さず、存在自体を世間から抹消される。
“存在”を奪われた、いわば生きる人形なのだ。
名の知れた地位ある人間にとっては、それは当然のものであり、まるで一般人が自治体のサービスを享受するように、ごく当たり前に利用するべくものだった。
政財界に身を置く者、芸能人やスポーツ選手等の人気を博す者にとって、一般人の恋人や愛人を囲うには、情報漏洩や個々の思惑等、多大なリスクが伴う。
…一般常識的に考えて、愛や恋など個人の自由であり、堂々としていればいいものである。
だが、人よりも高みにいる人間にとっては、そんなごく平凡な思考は存在しない。
所詮足の引っ張り合い、蹴落とし合いの世界だからこそ、敵に弱みを握られないために、どうしてもなくてはならない機関なのだろう。
そういう点から『愛DOLL』は、囲いたい時に囲う事ができ、“人形”であるからこそ処分にも困らず後腐れがなく、自分の意のままに扱えるという点で支持されていた。
金に糸目をつけない彼らには、ある種ステータスとしても定着している。
ごく平凡に暮らしている一般人には到底理解できない次元で、『愛DOLL』は常識とされているのだ。
個人の尊厳を謳い民主主義を唱える国家の闇に存在する、政府公認の売春組織。
はっきり言ってしまえばそういうものだった。
今この時も、この日本のどこかでそれらは作られていく。
当然のように………