全国的に有名な地元の祭りに、何年ぶりかで繰り出したのが先刻の事。
髪を結い上げ浴衣を着、うちわ片手にゲタをカラコロ鳴らして`粋な姉さん´と決め込んだ。
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花 火※※※※※※※※
案の定、そこここからお誘いの声がかかる。
祭りと言う開放感がそうさせるのか、あちらこちらに、ナンパ目当てと思わしき男女が溢れていた。
歩くのにも疲れ、一休みしようと路地裏へ入った途端、祭り半天の長身の男に腕を捕まれる。
「な、なに?!」
男は有無を言わさぬ強さで腕を引き、無言で先を歩いていく。
腕を振り払おうとするも、ギリギリと痛いほど力を込められ、その抵抗は容易に封じられた。
「ちょっ、痛っ! 離してよっ痛いったら!」
腕がダメならと足を突っぱねて抵抗するも、虚しく引きずられるだけ………
「ちょっと何なの?! アンタ誰?! 痛いから力抜いてよっ!! 逃げないから!」
半ば叫ぶように言えば、男は不意に振り返った。
「黙れ…」
整った目鼻立ち、額には捻った手拭いをキリっと締め、長い前髪が表情に影をつくるその男は、低くぶっきらぼうにそれだけを言い、また歩き出した。