たんぺん2

□夢、その先から
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足元からはらはらと、泡に
なっていくような幸福に、
私は近頃襲われる。




「はい、はい、それでは
その件は来週に……失礼します」
「また仕事忙しいみたいだね」

携帯を切って手帳を開く私
に、彼は温かな夕飯をテー
ブルに運びながら言った。

「ああ、うん。ちょっと
おっきいことがあるから」
「無理はダメだよ?」
「うん。ありがとう」
「さぁ、冷めないうちに食べよう?」

私の返事に満足したのか、
彼は心配そうにしていた顔
をゆっくり綻ばせて笑った。
そして私をテーブルに言葉
で導く。

仕事がきつきつにつまる私
とは違い、緩やかに勤務で
きる立場の彼は、いつもこ
うして私に温かなご飯を作
ってくれる。

本当は私がしなきゃいけな
いんだろうな、なんて思い
ながら私はいつもこの美味
しい夕飯を口にするのだ。

「いっつもありがとうね」
「なぁに言ってんの。俺はお前と
比べて仕事がゆるいんだから、当然」
「私同様、無理はダメよ?」
「ばっかお前。俺がお前のことで
無理したことなんかないよ」


嗚呼、なんて私は幸せなん
だろう。そう思う瞬間は、
いつも彼によってもたらさ
れる。


これが夢だったなら、私は
どんなに悲しいか。何度そ
う考えただろう。



「私の仕事が済んだら、出掛けようか」
「お、いいね、今度はどこにする?」
「前から行きたいって言ってた
美術館でも行く?」
「やったね!あ、それからお前が
見たがってた家具屋に行ってみる?」
「あーそうね。あの棚もうヤバイし」









嗚呼どうか、この幸福が、
夢でありませんように。





fin

 

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