短編
□夢幻
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目を開けると、一面に椿の花が埋め尽くされている。
一歩でも踏み出せば椿の花を潰してしまうことになるので、その場から動くことが出来ない。
「ここは・・・!」
突然、何かが足に絡み付き下へ引っ張られた。
下は水だった。
(このままでは息が!)
椿は上に手を伸ばすと、誰かが手首を掴み引っ張った。
「ケホッ、ケホッ」
「夢に引きずられるなんて、何を考えているの」
頭上で呆れたような声が聞こえる。
椿の手を引っ張ったのは、桔梗の花が描かれた着物を着た女性だった。
女性は椿に似ているように思える。
髪色は漆黒で、目は少しつり上がっており厳格な雰囲気を出しているが、瞳の奥には優しさが隠れているのがわかった。
その姿はまるで椿の数年後の姿を見ているようだ。
「助けて下さり、ありがとうございます。えっと、あなた様は・・・?」
「私のことはどうでもいいわ」
気のキツい言い方をする。
「ですが」
「はぁ。梗(きょう)よ」
梗はため息をついて、名前を言った。