短編W

□邂逅・午前2時の小話
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「丑三つ」。
午前2時から2時30分までのその時間帯だけ、営業している屋台がある。
ミッドガルの伍番街、草木育たぬ筈のスラムで大規模な花の群生が見られる教会の前。
そこに夜な夜なふらりと姿を現すという屋台には、毎夜、悠久の時間に身を置く魔性の類が、一時の安らぎを求めてちらほらと集まってくる。

店主が店主なら客も客。
ある時は人に化けるカラス。
ある時は闇と神秘の代名詞。
ある時は世に寄り添う奇跡の化生。
ある時は死してなお星に還らずにいる亡霊。
即ち、人の世で定義されるところの「人外」である。

そんな人外集う屋台だが、時折人外以外の来客もあり、
ヒトとヒトならざるものの間で、奇妙な談話を繰り広げるのである。


「……屋台?」

今夜屋台に迷い込む人外以外は、異世界からの来訪者。
所要時間約5時間、昨夜から日付をまたぎ午前2時20分に終了予定だった夜間任務。
それが1時50分頃片付き、あとは人の気配のない伍番街スラムを突っ切って本社へ帰るだけというところ。
焼き鳥とおでんの匂いに目を遣れば、見よ、この真夜中に西洋の教会と東洋の屋台の珍妙なコラボレーションである。

しかものれんの向こう側に見慣れた、彼女自身も着ている黒スーツの背面を認めてしまったのだから、どうにも色々抑制ならぬ。


「こんな時間に、どなただろう?」
小腹も空いたし、のれんの向こう側も気になるし、ちょっとくらいの道草ならツォンさんも叱ったりなどしないだろう。
そうこじつけるや否や、とてとてと屋台の方へ。
わいのわいのと楽しげに聞こえてくる談笑の片方、凛としたテノールの男声に、彼女は妙な感情を抱いた。

聞き覚えがあるのだ。
「似ている声の人を知っている」と説明すべきなのかもしれない。




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