短編W

□センシティブなアレコレ
1ページ/2ページ

View point → Tseng



物欲センサーとは、オンラインゲームや家庭用ゲーム等において、プレイヤーが「これが欲しい!」と願うドロップアイテムを正確に検知し、そのアイテムをとんでもなく強烈に出しづらくしてしまう悪魔のセンサーである。(出典:ニコニコ大百科)


「出ねえええええッッッ!」

「……騒々しい」


携帯ゲーム機両手に、そのうち睨みつけている画面を叩き割るのではないかという勢いで喚き散らすのは今晩限りの同居人。恋人に振られたとかで急遽勝手に宅飲みを開催した挙句、そのまま泊まり込む宣言して許可無く居座っているレノは現在、物欲センサーとやらが猛威を振るうことで有名らしいモンハンを態々数あるゲームの中からチョイスし、然して珍しくもないアイテムのドロップを狙って阿鼻叫喚している。
レア度は中の下程度の素材であるはずだが、まあ、今日のレノは普段よりも数倍程度は不運に輪が掛かっている。その程度のアンラッキーはお手の物といったところだろう。
本人には不本意でしかない現象だろうが。
ついでに、その火の粉が降り掛かって迷惑している俺にとっても不本意極まりない。さっさと帰れば良いのに。


「だああああッ!何だこれ!ドロップ率詐欺だぞ、と!」

「……出たのか?」

「何とか!」

「そうか、おめでとう。さあ、もう気が済んだろう」

「帰りませんからね、と」

「……はあ」


ルードのところへ行けば良いだろう、と当然の思考を辿った俺は無論最初にそれを指摘しているわけだが、どうも彼は今年度二度目のイタリアへとアモーレと共に旅行に出掛けているとか何とか。リア充爆発しろと殺意の込められた口調で説明されてはこちらも何も言えなかった。更に、イリーナに慰めてもらえなどとは余計に言えなかった。
因みにそのイリーナだが、今は実家に帰っているようだ。
ルーファウスは論外。
セフィロスも……まあ、無いだろう。
つまり何が言いたいのかというと、「こういう場合」のレノの相手を出来る相手は俺以外全滅であるという話だ。


「ツォンさんもやりますか、と」

「元々俺のソフトだろう。勝手にセーブデータを増やすな」

「いや、ツォンさんの家にゲーム機有ったのが意外で、つい」

「……ゲームくらい、大抵の男子なら通る道だ」


とはいえ、高校時代にルーファウスに『狩り手伝え』と無理矢理買わされて無理矢理させられていただけのゲームだが、まあ一度長期間触ったものにはそこそこの愛着が湧き、更にそこそこやり込んでいたので中々思い出深い品の一つになった、という理由で現在は箱にしまって有った。こんな形で再会するとは思っていなかったが、まあ、騒音を生み出したとはいえ一応レノの役に立っているので、残しておいて良かったと言うべきだろうか。
他にも無理矢理買わされた、或いは貸し付けられたままクリアまで返すことを許して貰えず詰んでいるソフトは複数有り、それらもまた同じ箱に収納している。レノはその中から「懐かしいな、と」なんて言いながらパッケージを眺めては仕舞い、眺めては仕舞いを繰り返していて、ふと有るタイトルを目にして手を止めていた。


「ア……アマ、ガミ……!?」

「……言っておくが、それは手付かずだぞ」

「いやいやいや!だとしてもツォンさんの家にギャルゲとか、」

「大学時代の友人に贈られたんだ。私の趣味ではない」

「あー……なるほど。『これで女心勉強しろ』的なノリっすか」

「……」


的確だ。


「こんなモンで女心がわかるかってんだ。いや、ゲームを否定するわけじゃねえっすけど」

「ああ……全くだ」

「つーか、……女心なんて、どんだけ頑張っても男が覗けるもんじゃねーしよ」

「そうなのか?」


確かにストーリーは素晴らしいと聞くが、やはりゲームといった媒体では人心を掌握する術を得られるとは思えない。しかし今こうして話をしているのは生粋の女好きの代名詞であるような、つまるところ恋愛慣れしているレノという男だ。
だからその答えは少々意外のように感じた。
何事も経験が物を言う世界だ、女心云々にしてもそれは例外ではないと思っていたが、違うのだろうか。

そんな風に疑問符を発生させながら、どうやら俺は知らぬうちに、まじまじとレノの目を覗き込んでいたらしい。それに気付いたこちらは当然ながら罰が悪い心地になるが、レノは怪訝な顔をするでもなく、また不快な素振りを見せるでもなく、空中で軽く片手を振って肩の凝りを解している。
ま、ツォンさんならそんな反応すると思ってましたよ、と。
なんて言いながら、先から全く変わらない飄々とした態度のまま再び開口した。


「大体、野生の世界では大抵メスが実権握ってんだ。元々生まれ持っての本能で、女って生き物は男の上に有るモンなんスよ」

「……そう、なのか」

「ええ。人間はどういうわけか要らねー知恵つけて勘違いしてるが、まあ、結論は今俺が体現してますよ、と」


ついさっき振られてきた男は語る。
しかしやはり俺には理解の及ばない領域で、益々怪訝を顕にするより他にリアクションも持ち得なかったわけだが。


「ツォンさんなら、一回恋愛的なことすれば忽ち分かると思いますけどね、と」

「……見当してみるか」

「あー、そっすねー……――って!?」

「少し興味が湧いた」


どれだけ俺たち男が上手く立ち回っても敵うことのない存在、か。
一度はそんな存在に出会ってみたいと、思わなくもなかった。

後学のためにも。










センシティブなアレコレ


View point → Reno

なんつーか、

ツォンさんって、一回恋愛したら、それが良い恋愛であれ悪い恋愛であれ、一生を共にする運命になろうと破局することになろうと、それっきりな気がする。
生涯、恋愛は一度きり的な。

これってもしかして、今俺はとんでもねー博打にツォンさん誘い込んじまったんじゃねーか、と……



アトガキ→
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ