novelette

□元気になれる薬
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「飲むのか、それ」

「さあ?飲むかもしれないし、飲まないかもしれない。…まあ、飲まずに済むならそれが一番なんだろうけど」

でしょ?、と顔はそのままにこっちに向けられた目がそう告げる


「じゃあ何で持ってんの?」

「なんとなく?」

「ちゃんと答えろ」

「…どうしたの、シンタロー君?さっきから積極的に絡んでくるね」

「うるさい」

「了解、黙るよ」

「………」


「わかった、答えるよ、答えるから。だからそんなに睨まないでー?」

ようやく答える気になったと思ったら、今度は頻りに考え込んでいる


「うーん、なんて言うか説明しづらいなあ。…例えばさ、シンタロー君。君の家には風邪薬ってある?」

「…あるけど」

「なんで?誰も風邪なんか引いてないのに?」

「風邪引いたときのためだろ」

「なんで風邪を引く前提なの?風邪なんて引かないのに越したことはないのに?」

「風邪を引かない保証はどこにもない……ああ、つまり」

「そういうこと。流石シンタロー君、理解が速くて助かるよ」

褒められて嫌な気はしない
だけど、

「それは元気になれる薬なんかじゃない」

「…考え方や価値観の違いだよ。シンタロー君にとってはそうでも、僕にとっては薬になる」

ますます訳がわからない

「なんでそれが薬になるんだ」

「だってこれを飲んで目が覚めたら、頑張ってみようって思えるでしょ?」

ガラスと液体で屈折して反射する光を眺めるカノは満面の笑みを浮かべていた



残念ながら俺はこいつの価値観とやらは理解できないらしい
だけどひとつわかったのは

「ちょっとシンタロー君、それ僕のなんだけど。返してよ」

「駄目だ、没収。それにこんなの必要ない」

非難の声を上げるカノを尻目に取り上げたビンをカノの手の届かない所に置く
全く、どうやって手に入れたんだこんなもの

「シンタロー君にとっては要らなくても、僕には必要なの!だから「じゃあ代わりをやるよ」

自然と口角が上がる
驚いて固まるカノの手首を掴みソファーに押し付けてそのまま……




ひとつわかったこと
どうやら俺は存外こいつを気に入っているらしい




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