成り代わり小説

□1.甘い
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「時夜ー。早いね!」

「お前が遅いんだろ」

「うっ。お、遅くないよ!時夜が早すぎるんだよ!」

と一生懸命言い訳を考えて守未は言い返す。

が、「お前が遅すぎるだけだ」と返され言葉に詰まる。

しかし、そこで諦める守未ではなく、すぐに別の言訳を考え始める。

むむむ。と眉間にしわを寄せながら考え……むむむむむむ。と唸りながら考える。

何で遅れたかを考える。

すると、遅れた理由が思い浮かんで……でも、その理由と言うのが眠かった。という遊んでいて寝てないから起こったことで、

「ごめん……」

と謝る。しかし、もうそこに時夜の姿は見えなくて、

「って居ないじゃん!?」

はあー。と深いため息をつく。

ピキーン

と、そこで慣れた感覚が頭に走った。

「!」

「来たようだね」

クンクンと匂いを嗅ぐようにして斑尾が言う。

「うん!行こう」

「あたしが奴らより先に見つけてやるから今日こそちゃんと仕留めなよ」

「えー。……うーん」

曖昧に返事をしながら守未は斑尾に続いて走り出す。









「ここらへん?」

「うん間違いない。ここらへんだ」

見回してみても、それらしき姿は見つからない。

「ほんとに此処にいるのー?」

「うん。凄く近いよ」

「うーん」

何度見まわしてやはり何処にもそれらしき姿は見えない。

「もう何処ー……あっ」

地面に座り込んでいると、後ろの池の橋の下からスススと何かが出て来た。

「居たよ守未!!」

「うん!」

橋の下から出てきた何かは高速で移動して端へ端へ移動していく。

「待て!待てったら」



「何処行った……?」

完全に見失った。どこを見てももう先ほどの何かを捉えることは出来なかった。

そこで、隣の斑尾が少し息をひそめながら言ってくる。

「守未花壇の右手に背の高い木があるだろ。あれ、丸ごと囲めるかい?」

「うん」

「手早くね」

「包囲。定礎。結!」

守未の年では、少し大きい結界だが、守未はあっさり木を囲む。

「よし、掛かった!」

守未は結界で囲んだ木に近づく。

すると、上から何かが下りて来た。

その何かは、女の子の姿をしていてとても妖には見えない。

「…………」

「何してんのさ。ありゃ立派な妖だ。早く仕留めな」

「でも……」

と、そこで結界の中にいる妖……女の子が話す。

「あ、あの……ごめんなさい。あたし、ここに来たら傷が早く治るって聞いて……あの、すぐ出ていきますから……だから……」

えと、ごめんなさい。と小さな声で呟く。それを聞いて守未は、

「そっか。じゃあいいよ。大丈夫?……解」

と言って、あっさり結界を解いてしまう。それに斑尾は、

「ちょっとあんた!何やって……」

だがその声は最後まで続かない。なぜかというと、

「ククク……お前みたいな甘いガキ結界師とは、舐められたもんだ。でも感謝するぜ。あと少し……あと少しだけ時間が足りなかったんだ。じゃあな」

と言いながら妖が女の子の姿から変化して襲い掛かってきたからだ。

「っ!」

守未は、声を出すこともできず、その場で顔を腕で覆って腰を抜かしてしまう。

そこで、グッと後ろに押されて倒れる。その弾みで顔の前の腕が取れると守未は、目に入ってきた状況が信じられなくて「えっ」と声をあげてしまう。

「結!……ッ……滅」

先ほどの守未位の大きさの結界を作り、何とかまとめ上げて滅する。時夜は、守未より2歳年上だがこの大きさの結界を滅するにはそれ相応の精神力が必要なのだ。

結界で妖を滅すると、バッと守未の方を振り返り、

「何やってるんだ!!ふざけるのも大概にしろよ、死んでたかもしれねえんだぞ!!」

と怒鳴ると、天穴でグッと支えながら立ち上がるが、すぐにフラッと倒れてしまう。

カランと天穴が落ちて乾いた音を出すが、そんな事はどうでも良くて守未は時夜に駆け寄る。

「時夜!時夜!!」

ガクガクと揺さぶるが、意識が無くグッタリとしていてだんだんと冷たくなっていく。

「時夜!どうしよう。どうしよう!時夜!!」

ダラント垂れ下がる腕がさらに守未の気持ちを焦らせていく。そこで、斑尾が怒鳴るように言った。

「式神を飛ばしな!……早く!!」

「う、うん」

守未は、懐から式神を取り出すと焦りからか、まごつきながらも早く飛ばす。

「時夜……ごめん。ごめんなさい」

ボロボロと涙を流しながら、ギュッと少しでも体温が逃げないように抱きしめて救援が来るのを待った。
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