うたプリ
□トキヤを食べる
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嗚呼、どういうことでしょうか。私は今、無性にやりたくなってしまった事があるのです。この目の前に居る頭の固いベジタリアン男。こいつさえ頷けば私の願いが叶うのです。
「ねぇねぇ、トキヤ。」
「なんでしょう?」
「今すぐトキヤを食べてもいいでしょうか?」
あえて此処は丁寧語で。お願いするのだからソレくらい当然。だが私がこの願いを口にした途端、こいつはまるで汚物を見るかのような視線を私に向けてくる。酷いな。私何一つ悪い事言っていないのにな。とりあえずもう一度言っておこうか。
「今すぐトキヤを食べてもい―――」
「お黙りなさい。」
「何故ですか。」
「一度言えば分かります。」
「だってトキヤ何も答えてくれなかったからさ。」
「当たり前です。誰だってそんな事聞かされたら狼狽せずには居られないでしょう。」
「でも君の場合ただ狼狽したような視線じゃなかったよね。完全に目の前にあるゲロに気づかず、誤って踏み潰してしまったかのような。そんな表情だったよね。」
「その顔をせざるを得ない発言を、貴方がしたんです。」
「私何一つ変な事言ったつもりないよ?」
「・・・・・・。」
「その顔はモウいいよ。」
私のメンタル的な部分に影響を及ぼすから。彼氏にこんな顔されるとか、結構えげつないよねこの状況。可哀想だよね私。
そんなベジタリアンで頭が固くゲロ視線で彼女を見る男トキヤ君は、急に真顔に切り替えると『それはどう言う意味ですか?』と聞いてくるので『いや、文字通りですよ。』と言い返してやった。
「文字通り・・・。純粋に・・・?」
「勿論。」
「だったら嫌ですね。」
だったらって何だよ。何こいつ、そう言う事を想像していた訳?そんな事する訳ないだろ私が。と言うか第一そんな事するためにわざわざ食べていいとか聞かないわ。私は、文字通り、純粋に、トキヤをガジガジしたかったの。さすがにカニバリズムとまでは行かないけど。
兎に角こいつの返答には納得行かない。ここは反論するしかないだろうな。
「いーじゃん。一齧りだけでいいから、ね?」
「可愛く言ったって無駄です。」
「チッ・・・。」
「あからさまに舌打ちしないでください。兎に角嫌です。第一、齧りたくなる事に理解出来ません。」
「気分だよ。無性にトキヤを齧りたくなったんだよ。理由なんて必要ない。」
「私には必要なんです。」
「そこに、トキヤが居たからだよ。」
「そこに山があったからみたいな言い方しないでください。と言いますか納得のいく理由を述べなさい。」
「え〜。トッキーのいけず〜〜!」
「寿さんの真似をしないでください。」
「はぁ・・・食べたいなぁトキヤ。齧りたいなぁ。一齧りでいいのになぁ。」
期待を込めてトキヤに視線を向けるが、物凄く呆れた顔で私を見ている。懲りずに頑張って見つめ続けると、トキヤは視線を外しさっきまで読んでいた本に再び目を向けだす。何だこいつ、態度悪っ!折角彼女がこんなにもお願いしているのに、こんな小さな願いを引き受ける事が出来ないなんて。100万するバック買ってなんて頼んでないのに。齧らせてって言ってるだけだよ?タダジャン。
とりあえず考えを巡らせるだけ無駄なので、仕方なく隙を狙って一齧りする事にした。それにしてもこいつ、男の癖に綺麗な肌をしやがる。悔しいよクソ。
本を読むトキヤをじ〜っと眺めながら何処を齧ろうか探っていると、ふと首筋に目が行く。よし、決めた。首筋にしよう。
作戦を決行する事にした私は、トキヤの綺麗な首筋を見詰め隙が出来た所でトキヤの首筋へと飛びついた。
「な!?」
いい匂いがするな。トキヤの首筋美味いな。離れたくないな。
こんな感じでトキヤの首筋を堪能していると、勿論トキヤは私を引っ剥がす。だがこのインテリ男の力には負けられない、と言う意味の分からないプライドで頑張ってトキヤにしがみ付いていた。
「静かになったと思い安心しきっていたらっ!不覚でしたっ!」
フフフ。私を侮るでないトキヤ君。断られたトコで、諦める私ではないのだよ。と、首筋を齧りながら心の中で一言。だが頑張ってしがみ付いていても、さすがは男だ。私は呆気なくトキヤから離されてしまい、両肩はガッシリとトキヤの手で押さえつけられそのまま向かい合う体勢になった。
「全く貴方と言う人は・・・。わざわざ私に食べられるために、そのような行動を起こしたのでしょうか?ねぇ・・・なまえ?」
「は・・・?いや、私は純粋に―――」
「仕方が無い人です。朝まで貴方は耐えられるでしょうか・・・?」
「いやいやいやいやちょっとまっ―――――」
その日私はトキヤと言う皮を被った狼に出会いました。狼は怪しく微笑むと、朝まで私を喰らい続けました。そんな私は、食されている最中心に誓った事があります。
もう二度と、トキヤを食べようなんて思わない。
FIN.
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タイトルからして裏。だが裏を書く自身なんて無かった。