短編

□敵わないキミ
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四方八方に散らばる白と黒のかたまり。
いくつも広がる壁の穴。
黒く焦げた鉄の欠片。

…さて、どうしたものか。

3人の少年は唖然と口をあけている。

彼らは只々…


チョコをつくっていただけだったのにっ…!!

今日は2月14日。
そう、バレンタインだ。
今年こそはビアンキのポイズンクッキングを阻止しようとツナ達が考えた策は、"逆チョコ"だ。
「今年は自分たちがプレゼントするから何もせずに待ってて欲しい」となんとか女性陣を納得させたのだ。
ポイズンクッキングの阻止を目的として考えた策だが、いつもかげながら自分達を支えてくれる彼女達にお礼をすることができるので、一石二鳥だ。

こうして初心者でも簡単なトリュフを作ってたのだが…


はて、一体何処から間違ったのだろうか?


チョコを刻んでボウルに入れるまでは良かった。
流石寿司屋の息子。
山本の素晴らしき包丁さばきは、チョコ完成に向けてかなりの安心感を与えてくれた。

次は生クリームを沸騰直前まで温め刻んだチョコと混ぜるだけ。
これは獄寺の担当だ。

山本は親父から店が混んで来たからちょっとだけ戻ってきて欲しいと連絡が入り、一旦帰宅。

初のチョコ作りに不安を抱いてたツナだったが、とりあえず作業が順調に進んでることに安堵した。


しかし、この時事件は起こる。

獄寺は料理の参考書を読むのに集中しすぎて火加減をしてなかった。
よって、凄まじく沸騰した生クリームはあちこちに飛び散り、それを見たランボが面白がって参戦。

邪魔なランボを排除しようとする獄寺とそれに対抗するランボによる爆撃戦が勃発!
とりあえず火を止めようと台所へとツナが動く。
が、爆撃戦の流れ弾の餌食になってしまった。

そっからはもう収拾がつかなくなった。

飛び交う手榴弾やダイナマイトに成す術を無くし、ツナはアタフタしまくっている。
そして…

「ん?何やってんだお前ら?」

店から戻ってきた山本の一言。
これが彼らの頭を停止させ、正常化し、現在に至る。



「ど、どうしようっ!これじゃあもう料理出来ないよっ!!」

先程の爆撃戦で、キッチンが使い物にならない。

「申し訳ありませんっ十代目!!」
「いや、いいよ!そんなに土下座しないでー!」

ツナは頭を何度も地面に叩きつけ、土下座する獄寺を止める。
しかし、やはりこのダメージのでかさに頭を抱え込む。

「まぁまぁ、なんとかなるって!予備で買っておいた板チョコが2枚残ってんだからさっ!」
「この野球馬鹿!たった2枚で足りるか!大体、ちゃんと材料が揃ってたとしても、チョコを溶かして又冷やして固めてたら時間切れなんだよ!!」
「あ、そっか!固めんの時間かかるもんな。…ん?じゃあ固めなけりゃよくね?」

…あれ?

急に目を点にしてる2人に山本は首を傾ける。

俺、なんかヤベェこと言っちまったかな?


「「……そ、それだぁぁ!!!」」

いきなり叫ぶ2人にまたもや山本は首を傾けた。



ピンポーン

インターホンが鳴り響く。
目の前にあるのは『笹川』という名札がある一般的な家。
ビアンキ達のは山本達が渡しに行ってくれた。
チェック柄の紙袋を手に、玄関のドアを見つめる。


「あ、ツナくん!こんばんは」

綺麗に澄んだ声はツナの心臓を早く動かす。
扉を開けたのはツナの想い人だ。


「こ、こんばんは、京子ちゃん。えっと、ゴメンね?こんな夜遅くに…」

「ううん、ツナくんならきっと遅くなっても今日中に来ると思ってたから」

優しく微笑む京子に頬を赤らめる。

「あ、あの!これ!言ってたヤツなんだけど…」
「ありがとうっ!…なか、見てもいい?」
「う、うん」

渡した紙袋を開ける京子を顔を強張らせながら見る。

袋から出てきたのはひとつのボトル。

よ、喜んでくれなかったらどうしようっ

そんな思いが頭をよぎり、思わず目を閉じたその時だった。



「わぁ!ホットチョコレートだぁ!!おいしー!」

パッと顔をあげると、目の前に広がる笑顔にツナは思わず言葉を失った。
それはまるで太陽のように明るく、暖かく──



「はい、これ!」
「え?」

京子の笑顔に魅入っていたツナは、いきなり差し出された可愛らしい袋にきょとんとする。

「チョコ作り、お疲れ様」

「…え!?い、いいよ、そんなっ!これはおれたちの日頃の感謝なんだから!!」

予想外の展開に必死に首を横にふる。

そりゃそうだ。これでもらっちゃあ、意味がない。

「…でも、貰ってくれた方が嬉しいな」

ツナは京子と袋を見つめる

「い、いいの?」
「うん」
「…本当に?」
「うん」

京子のもつ袋に手を差し伸べる。

「ありがとうっ!」

彼女の笑顔に負けじとツナも精一杯の笑顔を向ける。
それこそ、すべてを包み込む大空のように

「そ、それじゃあおれは「待って!」…え?」

京子は立ち去ろうとするツナを呼び止める。

「あのね、"日頃の感謝を"って言ってたけどね、ツナくんはもう十分してくれてるよ」
「…え?」

「だってね──」




場所は並盛公園
ツナは1人、ベンチに腰をおろしてた。
先程貰った袋を開けるとチョコレートが入っていた。
ひとつ摘まんで口に入れる。


──だってね、ツナくんが笑ってくれてるだけで、幸せだもんっ──

「…やっぱり京子ちゃんには敵わないや」

ツナはクスッと小さく微笑む。

甘くて優しい味が口の中に広がった。
 

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