捧げ物【編集用】

□10000打企画
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澄み通った青空。

綺麗な小鳥の囀り。

そして、変わらぬ日常。

「ホラ、今日の分」

皆本はいつも通り、作った弁当をエプロン姿で差し出した。

「忘れ物ないか?周りに気をつけて、遅刻しないように行くんだぞ」

「皆本はん、そのカッコでそのセリフだと完全にお母さんやで…」
「大丈夫よ。何かあっても金力又は権力又は血の報復でなんとかするから」

「全然大丈夫じゃないよ!!てか、ラストの一番ダメだから!」

葵の発言はまだしも、紫穂の発言…特にラストのは全くもって無視できるものではない。

本人は冗談だとちゃかすが目がガチにみえ、冷や汗が流れた。

「てかさ、もうあたしたち中学生だよ?いつまでも子供扱いないでよね!」
「中学生は子供ですっ!!」

変わらない皆本の扱いにムスッとする薫。
早く大人扱いして欲しい。
きっとその時がくれば皆本の隣にふさわしくなれると思うから。
まぁ、そんな想いも皆本に届くはずもなく弁当を受け取り玄関にでる。

「それじゃあいってきますっ!」

元気よく学校へと走る薫たち。
その清々しい後ろ姿に目を向ける。

「もう中学生かぁ…」

『中学生は子供ですっ!!』

そんなコトを言ったが、実際出会った頃よりかは全然成長してる。
保護者としてそれは喜ばしいこと。

だけどその分“あの未来”に近づいてるということ

それを考えるとなんともいえない。

まぶたを閉じ複雑な心境に想い馳せる。
そして、何かを決めたのか空を見上げた。

「さてと、僕も行くか」



そう言ってやって来たのは管理官の別荘。
薫たちが中学生になってから定期的にくるようになったこの別荘。
目的はもちろん一つだ。

「あら皆本くん、いらっしゃい」

別荘の玄関を開けるとそこにいたのは管理官。
いつもは寝てることが多いのだが、ここ最近はよく起きている。

「“アレ”を確認したいのですが…」

管理官に向ける真剣な眼差し。
それに答えるかのように管理官も…

「大丈夫。不二子の勘だと皆本くんと薫ちゃんはちゃんとくっつくというかむりやりにでもくっつけ…」
「なんの話ですか!?てか、ここは真面目に返して下さい!!」

まさかの返答に声を荒げる皆本。

いや、相手が管理官ならこれくらいの予想をしとくべきだったか…

ハァと重いため息をつき、メガネをなおす。

「しょうがないわね。……別にさっきも確認したけど、異常はなかったわよ?」
「一応です。確認したらすぐ本部に戻ります」
「そう…わかったわ」

管理官は皆本に背を向け、指を鳴らした。
すると、先ほどはなかったスクリーンが映し出され緊張が走る。



『動くなッ、破壊の女王【クイーン・オブ・カタストロフィー】!!いや……薫ッ!!』

流れる映像はいつもと変わらぬモノ。
それでも何か変化はないかと目を凝らす。

そんな時だった。



パチンッ!!!



「え?あれ?」
「停電??」

急に目の前が暗くなった。
特別天気が悪いわけでもない。
というか、全くの晴天で今は朝。
真っ暗なんてありえない。
何かあったのかととりあえず外をみようと窓に駆け寄ろうとした。
すると──



パチンッ!!!



「え?あれ?」
「ついた…」

先ほどの暗闇が嘘かのように明るくなり、映像も流れていた。


『撃てよ皆本。あたしがいなくなっても何も変わらない。他のエスパーたちは戦いをやめないよ』



この映像の確認もしたいが今は先ほどの停電について調べるのが先決。

「管理官、一度バベルに行ってさっきの確認をしましょう」
「えぇ、そうね」

聞こえてくる声を無視し、バベルへ行こうと駆け出す皆本。
そのあとを追おうとした管理官はふと映像を目にする。

「ちょ、ちょっと待って皆本くん!!」


慌てた声で呼び止める管理官。
その声に足を止めると管理官はこちらを見ておらず、その目線は映像に向いていた。

「どうしたんです、管理官」
「今、一瞬だけど何か映ったような…」
「…え?」


管理官の言葉にまさかと思いながら同じように目を向ける。
そこに映ってるのは哀しいような嬉しいような表情の女性と彼女に銃口を向ける青年の姿。
そして、今まさにその青年が引き金を引こうとしていた。

何も変わってないのだが、何かあるのかと必死に目を凝らす。




──ドンッ!!



響き渡る銃声。
そして、その銃弾が貫いたものを見て目を大きく開けた。


「こ、これは──!?」


そこにいたのは自分たちのよく知る女性────




───ではなく、髪のオレンジ色が目立つ見知らぬ青年。



「こ、これは一体!?」


驚きを隠せない2人。
変わっていてくれることを望んでいたのに、その変わり方に言葉をなくした。


「…この青年、誰だかわかる?」
「いいえ。管理官は?」
「全くね…」

管理官の問いかけに冷静を取り戻した皆本。
しかし、青年の正体がわからず再びだんまりとする。


「とりあえず、バベルに行きましょう。そうすればこの青年の身元がわかるかもしれません」
「そうね。もしかしたらさっきの停電、何か関係あるかもしれないものね」


突如現れ今まで変わることのなかった映像に大きく影響をあたえた青年。
その正体と停電の関係を求めて、2人はバベルへと別荘をあとにした。






「…………女王」

暗闇の部屋。
銀髪の青年は手を丸い装置に置き、うつろにつぶやく。


コンコン。


ドアを軽く叩く音。
その音に目線を向ける。

「入っていいよ」
「失礼します」

青年の許可のもと部屋に入ったのは長いクセのある黒髪の青年。
ビシッとスーツを着こなしており、一見銀髪の青年より大人に見える。

「どうした?真木」
「先ほど停電があったので、念の為に確認を」
「相変わらず心配性だなぁ〜」

真剣に答える真木に気の抜けた顔をする少佐。
フツーにみればいつも通りで変わらない表情なのだが、長い付き合いなのだろう、何かを感じたのか真木は少佐に問いかける。

「何かあったのですか?」
「どうしてだい?」
「え?なんとなく…ですけど」

真木の言葉に逆に問い返しながらドアまで歩く。
問い返されたことに少々驚きながら、自分の横を通過してドアに手をかけた上司をみる。
そして、その上司の後ろ姿からは不敵な雰囲気を感じた。


「………まぁ、面白くはなってきたかもね」




不敵な横顔をみせ不可解な言葉を残し立ち去る少佐。
わけがわからずもやっとする真木。
そんな真木の気も知らず、そのまま歩いてく少佐。



「彼女を救ったのは僕でもヤツでもなかった…か」



ポロリとこぼれた一言。
そこには彼女が救われた喜びよりも救ったのが自分ではなかったことの不甲斐なさ、今まで何があっても変化を見せなかった未来を変えた青年の正体への懐疑心と探究心があった。
そして、自然と笑みが浮かんだ。




──必ず見つけだしてみせるよ、突如現れた不思議なメサイア──
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