●ヒソカの場合●


ふわふわの体にクリームを纏い、
私を誘う甘い誘惑。
一度口にすればもうアナタの虜。

ふと思い出したのは懐かしい母の味。
鮮明に覚えているあの甘い甘い味。
よく母にせがんではそれを作る母の隣に立たせて貰い、ただただその行程に見入っていた。
手伝いができる歳になると進んでキッチンに篭もり母の監視の元、見よう見真似でただただそればかりを焼き上げていたものだ。
そんな懐かしい味がふと恋しくなった。


『作ろうかな…。』

誰に言うでも無しに呟いて私は財布を持ち外に繰り出した。
作り方は覚えている。
用意するは材料のみ。

最寄りのスーパーに入り、品物を物色していると意外な人物に遭遇した。

「やぁ☆」

『……今日和。』

「ヤだなぁ◆そんな警戒しないでよ♪」

よく知った、少々癖のあるお人。
ヒソカさん、奇術師スタイルで買い物籠を持っている今のアナタは途轍もなくこの場に似合いません。
ちらりとヒソカの買い物籠を見ると中にはインスタント食品が二、三点無造作にはいっていた。

『随分不健康そうな食事ね。』

「ん?あぁ、仕事終わりでね▼正直食べたくもないんだけど、この状態で帰ると外に出るのが億劫になりそうでね★先に買い溜め◆」

確かに…パッと見には普通に見えるがよく見ると少々やつれているとゆうか…外だから気を張っているのだろうが、家に帰ったら即座にベットにダイブしたいとゆう事が素人目にも解った。
しかしそんな時こそ胃に優しいものを食べ、さっと湯に浸かったほうが体にはよい。
なんとなしに本人の現状を見てしまったからそのままほっとくのは気が引けて…。

『少しでも食べてからの方がいいわよ?』

「そんなにまで僕が心配かい★」

『ご飯ぐらいなら作ってあげようかなっていう気持ちが今萎えたわ。』

なんとなく言われ方が癪に障り、私はくるりと方向転換しヒソカに背を向け歩きだそうとした……ら、体がぐっと引っ張られる。
ふと肩を見て私はヒソカを睨んだ。

『…商業施設内念使用禁止。』

「君はほんとに不思議だね♪念が使えないのに念が見える◇僕の君に対する興味がどんどん膨れ上がってゆくよ▲」

もの凄く楽しそうなヒソカの顔、理由は邪なのにその顔はまるで少年の様。
ほんとに彼の事は解らない…。
何も言う事が出来ず、未だ体も動かないままなのでじっとヒソカを見つめていた。
彼の手が頬に触れ、その端麗な顔が近づいて来るまで…。

――ググ。

「そんなに見つめられたら興奮するじゃないか★」

――チュッ。

『〜っ!!!???』


っほほほほ、ほ、ほほ、頬になまなまな、生暖かいかんしょ、感触がぁ!!??


【こんな場所で、こんな人に、頬接吻された!】


状況を理解した私の頭は一瞬にして真っ白になり体は薇が切れたかの如く固まってしまった。
顔を真っ赤にして狼狽える私を楽しそうに見ながらヒソカは私の買い物籠を物色し始める。
私の買い物籠には小麦粉、ベーキングパウダー、卵、砂糖、ミネラルウォーター、ダージリンの茶葉。
その材料を見てヒソカは首を傾げた。

「さて、君は一体何を作るんだい?▼」

未だ近い顔に狼狽えながらも私は本来の目的を思い出し何とかヒソカから離れようと試みながら口を開いた。

『シフォンケーキを作るのよ!』

帰ってきた言葉を彼はポカンと受け止め、言葉を理解したのかにんまりと笑った。
ああ…もしかして今、余計な事を言ってしまったかもしれない…。

「ふ〜ん◆ねぇ、疲れている時って甘いモノが食べたくなるよねぇ♪」

ああ…やっぱり…

『……そうかしら?』

「僕は食べたくなるんだよ☆」

『……あら、そう。』

「僕、今すっごく疲れてるんだ▲」

『それはお疲れさまです。』

「君も素直じゃないね◇」

『アナタほどじゃないわ。』

ヒソカが何を言いたいのか解るからこそとぼける私。
正直、面倒事は遠慮させて戴きたい所。
言うもんか、絶対言ってやるもんですか!


「君の作ったケーキが食べたいよ▽」


ああ、この卑怯モノ。
ずるいわ。
その声、その顔…まるで捨てられた子犬のようで…。
女性の母性本能をかき立てる表情のアナタに勝てた試しはないのよ。
今回だって……


『………見返りは高いわよ。』

ほら、負けた。

「体できっちり奉仕させて戴くよ♪」

『そんなのいらないわよ!』

「照れ屋だねぇ▼」

『あのねぇ……はぁ…』

反論する気力も萎えてしまったわ。
こうなったらアナタのペースだもの、悪足掻きしたってまったくの無駄。
今だってほら、アナタに手を引かれて早々にレジに向かってる。
このままアナタの家に直行するんでしょ?
それ以外の選択肢を用意してくれない事を心得ているから仕方ない…。
作ってあげるわよ、私が食べたいから。

…何て強がっているけど。
何気に引かれた手が嬉しくて、つい頬が緩んでしまうのは、何だか悔しいからアナタにはまだ内緒。


今日学んだ奇術師の餌付け方。
上から目線は当たり前、
隙を見せたら即立場逆転注意!






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