紫黒は正義!

□candy eyes
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久々に部活が休みな放課後のこと。
日が差す、あったかい屋上でうとうとしていると、図書館の本を持った黒ちんが目の前に居た。
相変わらずの影の薄さは言うまでもない。
「今日は部活がお休みですね」
俺を見つめる黒ちんの眼は、例えるなら無機質な飴玉。
バスケが絡むと輝くソーダ味。
みんな解らないって言うけど、黒ちんの感情は眼に出てるから、なんとなく黒ちんの気持ちは解る。 黒ちんの眼を見てると、色んな飴玉を食べた気分になれる。
黒ちん見てると楽しいのは内緒。 「黒ちん甘そうだよねー」
「僕、そんなに優しくないですよ?」
解ってるくせに。
「そーゆー意味じゃないしー」
「……?」
「てゆーか俺お腹すいちゃった」
「んー…、じゃあこれ、良かったらどうぞ」
優しい声と共に差し出された飴玉はソーダ味。
さっき、黒ちんの眼は飴玉みたいって思ったけど、本物と比べると黒ちんの眼の方がずっと綺麗。 当たり前だけど。
でも、黒ちんがくれたソーダ味の飴玉は、なんだか特別な――黒ちんそのもの、みたいな――そんな感じがして、噛んじゃダメ、大切に食べなきゃって思った。
ちっちゃい、ちっちゃい飴玉だから、すぐに無くならないように。

もし、黒ちんが飴玉みたいにしゅわりと溶けて、居なくなっちゃったら?
ちょっと力をこめただけで、ちっちゃく砕けて無くなっちゃったら?
そう考えると、途轍もなく不安になる。
「黒ちん……いなくならないよね?」
「え?」
「飴みたいに、無くなっちゃったりしないよね?」
大丈夫です、紫原くん。僕は居なくなったりしませんよ、だから……。
「安心して下さい。ね?」
泣き止まない駄々っ子を宥めるように、優しく頭を撫でてくれる。 黒ちんの手はあったかくて、小さくて。
俺が守んなきゃ、なんて思ったりして。
嫌いじゃない、こういうの。
「……落ち着きました?」
最後にポン、と軽く触って、黒ちんの手が離れていく。
「……で、」
「え?」
「やめないで……」
全く紫原くんは、といった面持ちで、黒ちんは また小さな手を伸ばす。 また頭に黒ちんの暖かさが戻ってきた。 幸せ。
やっぱ俺、黒ちん好きだ。
「……黒ちん」
「なんですか?」
「黒ちん」
「紫原くん?」
「んー……呼んでみただけー」
「もう……」
……言えない。
好きだなんて、言えない。
「あっ、白髪発見です」
「えっ、ちょ、抜いて」
ちょっと。
白髪とかやめてよね。
俺まだ若いんだからね!
黒ちんは少し悲しそうな眼をして、一言断ってから白髪を抜いた。
小さな痛みのあと、黒ちんの手がまた頭を撫でる。
「すみません、大丈夫ですか?」
色素の薄まった髪は、薄い青。
黒ちんの髪みたいな色だった。
黒ちんの髪とお揃ーい、と言って笑う。
失礼な、と言いつつおかしそうにくすりと笑う黒ちんが可愛くて、黒ちんの肩を優しく引き寄せる。
「……っ!紫原くん?」
割れちゃわないように、溶けちゃわないように 優しく抱きしめると、一瞬強張った体から力が抜けていくのが解った。
赤く染まった耳と、控えめにそろりと背中に回された手が愛おしい。
黒ちん、と呼ぶと、少し間が空いてからはい、 と小さい声で返事が返ってくる。
呼ぶ度に耳の赤みが増していく。可愛い。

「俺、黒ちん好き。大好き」

言えた。
また少し黒ちんの身体が強張ったけど、すぐに黒ちんが小さな声で言った。

「……僕もです、紫原くん」

マジ? ぶっちゃけ俺、ちょっとイグナイト来ると思ってた。
「……マジで?えっ夢じゃない?」
「夢なんかじゃないです」
黒ちんが回す手に力を込める。
「夢、じゃ、ないんだ……」
じゃあ、俺は本当に黒ちんを自分のものに出来たってことだよね。
「黒ちん、俺……すげー嬉しい」
「ふふっ、僕も本当に嬉しいです」
俺から大分下にある顔。
恥ずかしくなったのか、少し潤んだ飴玉が俺を見つめる。
「……俺、絶対イグナイト来ると思ってたもん……」
「まさか!」
本当におかしかったのか、笑いながら即否定する黒ちん。
「でも、紫原くんが僕のこと好いてくれてたなんてびっくりです」
くすりと笑う黒ちん。
「これからよろしくお願いします、紫原くん」
「こちらこそどーぞよろしくお願いします、黒ちん」
他人行儀な挨拶を交わして、同時に笑い出す。
「なんだか新鮮です」
「ねー!明日から学校が楽しみになっちゃったー」
最終下校のチャイムが鳴った。
「あっ、もうこんな時間だったんですね」
「びっくりー」
言いながら、黒ちんと同じ高さに屈み込む。 一瞬触れるだけのキスをして、黒ちんの頭を撫でて立ち上がる。

「黒ちん、だーい好き!」


―fin―

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