Short

□Love Hero
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初めて会ったのは、あの日の夕暮れ。
廃墟で私達を救ってくれた、あの瞬間。

今でも思い出せる、彼の声や姿に。



確かに私は、恋をした。



あの場所にいたのは、偶然だった。

世界が人造人間に破壊されていく中で、私は助けられない命を見てきた。
沢山、たくさん、命の炎が消えていくのを。

それが嫌だった。悲しかった。
まだ助けられたかも知れないのに。
それなのに、助けられなかった。

そんな思いが胸の中で渦を巻き、私は家を飛び出していた。

私が助けたい、と思っても、助ける手立ては私にはない。
それでも、誰かの犠牲の上で成り立つ世界を、私は見たくなかった。
偽善者、なんて、呼ばれても良かった。
ただ救いたい、それしか私の心にはなかった。

どれくらい走って、歩いて、また走ってを繰り返しただろう。
いつの間にか、私は見知らぬ廃墟にいた。

辺りを見回しても、原型を留めていない、崩れた建物しか見えない。
その瓦礫の下には今も誰かが生きたい、と叫んでるかも知れないって思うと、情けなくなる。

私には救えない命で、それを助ける技量も、術も、持ち合わせてないから。

それでも、それでも、私は救いたいと思った。

誰もいないかも知れないのに、私の足は勝手に動いていた。
近くの瓦礫に近寄り、自然と手が瓦礫を退かしていた。

この場所にはいないかも知れない。
もしかしたら、ここに生き埋めにされて苦しんでる人がいるかも知れない。

そんな葛藤が私の中で渦巻いて、叫んで、泣いている。

重い瓦礫を必死に退かしながら、私の頬にはいつの間にか冷たい雫が零れていた。
頭の隅で泣いている、と理解していたけど、私は手を休めずに動かす。

その時、ぼやける視界の隅で、何かが私を捉えた。



「――――…ぁ、ぁ……」

「――――――っ!!」



声が、人の呻き声が聞こえた。

私は一生懸命にその声と、視界に捉えた人の腕を目指して瓦礫を退かした。
爪と皮膚の間に何かが挟まって指が痛い。
それでも、私は痛みなんて感じられないくらいにその人の事で頭が一杯だった。

ようやく瓦礫がなくなる頃には、人の姿が見えていた。

私よりも子供だろうか。
その子は、傷付いた身体でも、懸命に生きようとしている覇気を感じられた。



―――――あぁ、よかった……!



脱力した身体から力が抜け、地面に座り込んでしまった。
それでも私は、子供の方に向かうように手を付きながら近寄る。

その時だった。

私の上からポツポツと、小さい塊が降ってくる。
何かと思って上を向けば、大きな瓦礫の塊が、私達の上から落ちてきた。
私は突然の事に驚きながらも、必死で子供だけは助けようとその子の上に覆い被さる。



―――――どうか、この子だけは助けて!



落ちてくる瓦礫の衝撃が怖くて目を瞑る。
だけど、いくら待っても痛みはこなくて、目を開けた。



「大丈夫ですか……?」



私は、一生忘れないだろう。

その声を、その姿を、その温もりを。

気付けば、私と子供はその青年の腕に抱かれていた。
混乱する頭で、私はどうして助かったのか、この青年は誰かを考えていた。

そんな私に気遣ったかの、青年は眉尻を下げて曖昧に微笑んだ。



「どこか怪我はありますか?」


「だ、いじょうぶ…です」



声を出すも喉がカラカラに乾いていて、思うように声が出なかった。
それでも青年は良かった、と顔に安堵を浮かべる。



「貴方達の上に瓦礫が落ちてきたので、咄嗟に助けたんです。良かった、助けられて」



その声を聞いた私は、何故だか胸が締め付けられて、いつの間にか気を失ってしまった。

私が意識を取り戻した時には、その青年はいなくて、病院の天井を見つめていた。
子供も命に別状はないらしい事を私に看護士さんは教えてくれた。


私はそれ以降、彼を見ていない。
彼がどうやって瞬時に私達を助けられたのか、それは分からない。
でも分かっているのは、彼が私達を助けてくれた、英雄だという事。



「心配したわ…!名無しさん!!」



私を心配してくれるお母さんの声に、私は微笑んだ。


今も何処かで誰かを救っているであろう、彼を思いながら、私は空を見上げる。



助けてくれて、ありがとう。
私は今、貴方のおかげでしあわせです。





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