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□もっともっと、恋をする
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幼馴染の彼は、恥ずかしがり屋で、でも時には頼りになる、カッコイイ男の子。
そんな彼―トランクスに、私は恋をしている。
「名無しさん、何やってるんですか?」
いきなりの声にビクリッ、と肩を揺らした名無しさんだが、その声の持ち主が彼だと知ると安堵の笑みを浮かべた。
暖かい、低い声。名無しさんの大好きなトランクスにパタパタと近寄る。
「何だと思うー?」
えへへ、と笑みを零しながらグルッと手を広げて一回転する。
そして、ふわり、と広がるスカートの裾を掴んでお辞儀をした。
何をしてるか分からないトランクスは首を傾げたままだったが、それでも目元を緩める。
「分かりません」
「えーっ、ダンスだよ!ダンス!」
「あぁ、なるほど」
確かにダンスと言われれば、踊りに見えたかも知れない。
曖昧に頷くトランクスの反応に不満なのか、名無しさんは頬を膨らました。
「トランクス!女の子がダンスしてるのよ。何か言う事はないの?」
「え?言う事…ですか?そんな急に言われても……」
戸惑うトランクスに更に頬を膨らます名無しさん。
まるでハムスターの頬袋みたいで、小動物を思わせる。
本当に分からないらしく、唸るトランクスに名無しさんは諦めたのか溜め息を吐いた。
「もーっ、綺麗だね?とか、美しいよ、みたいな事言えないのー?」
「そ、そんな事言えませんよ!」
「むー。ま、期待はしてなかったけどね」
大袈裟に肩を竦めて、トランクスに踵を返す。
期待はしてなかったが、何だか釈然としない。
少しでも綺麗に見られたくて踊ってみたのに、トランクスのばか。
ぶつぶつと呟きながら、もう一度踊ってみる事にした。
基本を踏まえて独自に作り出したダンスの為、あまり上手とは言えない。
けれど、一生懸命にやっているだけあり、名無しさんの動きは軽やかだ。
まだ恥ずかしそうに頬を染めていたトランクスは、名無しさんの踊りを見て更に頬を赤らめた。
それに気付いた名無しさんが、ダンスを中断しトランクスに近付く。
「どうだった?さっきより、良かったかな?」
「………ダンス、だからじゃないと思うんです」
「?」
そっぽを向きながらトランクスは答えた。
その答えが良く分からなくて、名無しさんは首を傾げる。
「どういう意味?」
「だから……名無しさんが綺麗なのは、ダンスをやってるからじゃないと思います…」
「え……っ」
ドキッ、とトランクスの言葉に名無しさんの頬が熱くなる。
呆然と立ち尽くす名無しさんを、トランクスは真っ赤な顔で見つめた。
「名無しさんは、元から綺麗ですよ!」
タッと、そう言ったトランクスは、そのまま何処かに走って行ってしまった。
取り残された名無しさんは、さっきの言葉を頭の中で反芻しながら、地べたに座り込んだ。
―――――名無しさんは、元から綺麗ですよ!
「―――――っ!!!」
真っ赤に染まった顔で、でも真剣にそう言ったトランクス。
名無しさんは胸元を握り締めながら、ギュッと下唇を噛んだ。
卑怯だ。彼は、酷い人だ。
その気がないくせに、そんな言葉を掛けられたら、勘違いしてしまう。
高鳴る鼓動に胸が苦しくなる。全身が熱い。
赤く染まった頬を両膝で隠すように丸くなると、名無しさんは強く目を瞑った。
こんな想い知らなければ、素直に受け取れたかも知れない。
ありがとう、って笑いながら言えたのに。
「はん…そ、く…だよ…っ」
どうしよう。
貴方の事を、もっともっと、好きになってしまった。