Short

□もっともっと、恋をする
1ページ/1ページ








幼馴染の彼は、恥ずかしがり屋で、でも時には頼りになる、カッコイイ男の子。

そんな彼―トランクスに、私は恋をしている。





「名無しさん、何やってるんですか?」



いきなりの声にビクリッ、と肩を揺らした名無しさんだが、その声の持ち主が彼だと知ると安堵の笑みを浮かべた。

暖かい、低い声。名無しさんの大好きなトランクスにパタパタと近寄る。



「何だと思うー?」



えへへ、と笑みを零しながらグルッと手を広げて一回転する。

そして、ふわり、と広がるスカートの裾を掴んでお辞儀をした。

何をしてるか分からないトランクスは首を傾げたままだったが、それでも目元を緩める。



「分かりません」


「えーっ、ダンスだよ!ダンス!」


「あぁ、なるほど」



確かにダンスと言われれば、踊りに見えたかも知れない。

曖昧に頷くトランクスの反応に不満なのか、名無しさんは頬を膨らました。



「トランクス!女の子がダンスしてるのよ。何か言う事はないの?」


「え?言う事…ですか?そんな急に言われても……」



戸惑うトランクスに更に頬を膨らます名無しさん。

まるでハムスターの頬袋みたいで、小動物を思わせる。

本当に分からないらしく、唸るトランクスに名無しさんは諦めたのか溜め息を吐いた。



「もーっ、綺麗だね?とか、美しいよ、みたいな事言えないのー?」


「そ、そんな事言えませんよ!」


「むー。ま、期待はしてなかったけどね」



大袈裟に肩を竦めて、トランクスに踵を返す。

期待はしてなかったが、何だか釈然としない。


少しでも綺麗に見られたくて踊ってみたのに、トランクスのばか。


ぶつぶつと呟きながら、もう一度踊ってみる事にした。

基本を踏まえて独自に作り出したダンスの為、あまり上手とは言えない。

けれど、一生懸命にやっているだけあり、名無しさんの動きは軽やかだ。


まだ恥ずかしそうに頬を染めていたトランクスは、名無しさんの踊りを見て更に頬を赤らめた。

それに気付いた名無しさんが、ダンスを中断しトランクスに近付く。



「どうだった?さっきより、良かったかな?」


「………ダンス、だからじゃないと思うんです」


「?」



そっぽを向きながらトランクスは答えた。

その答えが良く分からなくて、名無しさんは首を傾げる。



「どういう意味?」


「だから……名無しさんが綺麗なのは、ダンスをやってるからじゃないと思います…」


「え……っ」



ドキッ、とトランクスの言葉に名無しさんの頬が熱くなる。

呆然と立ち尽くす名無しさんを、トランクスは真っ赤な顔で見つめた。



「名無しさんは、元から綺麗ですよ!」



タッと、そう言ったトランクスは、そのまま何処かに走って行ってしまった。

取り残された名無しさんは、さっきの言葉を頭の中で反芻しながら、地べたに座り込んだ。



―――――名無しさんは、元から綺麗ですよ!


「―――――っ!!!」



真っ赤に染まった顔で、でも真剣にそう言ったトランクス。

名無しさんは胸元を握り締めながら、ギュッと下唇を噛んだ。


卑怯だ。彼は、酷い人だ。


その気がないくせに、そんな言葉を掛けられたら、勘違いしてしまう。

高鳴る鼓動に胸が苦しくなる。全身が熱い。


赤く染まった頬を両膝で隠すように丸くなると、名無しさんは強く目を瞑った。



こんな想い知らなければ、素直に受け取れたかも知れない。

ありがとう、って笑いながら言えたのに。



「はん…そ、く…だよ…っ」



どうしよう。

貴方の事を、もっともっと、好きになってしまった。





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ