×Deep Rose×
□君がフルーツの代わり
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ぼくはその日、重大な事に気づいた。
その事実をカレンダーで確認すると、現実味が一層深まって。
水の透明感とは似ても似つかない、青ざめた汗を浮かべた。
君がフルーツの代わり
「申し訳ございません…ほとんどが品切れでして…」
なんて謝る店員さん。
店では既製品のチョコはほぼ売り切れていて。
さっき今日がバレンタインだと気づいたぼくは、結局買えない人の1人となってしまった。
売ってると言えば、板チョコ。
「…」
て、手作りしかないのか?
だけど家に帰れば“あいつ”がいる。
今日がバレンタインだと知らなくて。
ついさっき気づいて。
買いに行ったら板チョコしかなかった。
笑われる…!
だけど…あげないよりかはマシか。
ぼくは目の前の板チョコを謝罪の意味を込めて5個と、多めに買った。
***
「ただいまー…」
おそるおそる家へ入ると、彼は居た。
ぼくの気配に気づいて、玄関へ向かってきたようで。
寒かったぼくの肌は、暖房に当たる前に暖かくなった。
「んッ……うぅ…」
強く抱きしめられたまま、与えられた甘い口付けの感覚は。
身体の芯まで暖かくなるみたいに浸透していく。
あぁ、ホントぼくって馬鹿。
こんなに待ってくれたのに、板チョコだけなんてさ。
「…ごめん…」
唇を離したと同時に、ぼくは謝った。
御剣は不思議そうな顔をしたけれど。
すぐにそれは仄かな笑みへと変わった。
「これだろうか?」
そういってカバンの中に手を突っ込んだ御剣。
すぐ出されたのは、間違いない。
「…う…」
板チョコ。
思わず目線を逸らしてしまうが、すぐに身体ごと引き寄せられてしまう。
「…忘れていたのかな?」
耳元で、誘うように笑う御剣。
ゾクリ。
思わず身震いしてしまう。
正直に説明してみろ。
と、得意げにぼくを見下ろす御剣に、
手玉に取られてしまった。
と、あからさまに嫌な顔をしてしまったぼく。
だけど、拒否しても結局は法廷張りの迫力で嫌々口を開けなければなくなると思って…
正直に答えた。
…………すると。
「……………ククッ…」
ほら来た。またぼくを馬鹿にして。
「それで板チョコしか買ってこなかった。…と。ククッ、お笑いものだな。」
「わ、悪かったとは思ってるよ。だけどそんなに笑わなくても良いだろ!?」
「ククク…すまない。君が可愛らしくてな。」
「は…可愛い!?頭おかしいよ御剣!」
ぼくが顔を真っ赤にして異議を申し立てても、今の御剣には無意味らしくて。
笑いを止めようとはしない。
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