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□ういれん
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告白をしました。
いわゆる愛の告白です。
相手は田中くんでした。
最初は「なんだこいつ……髪型と服と目と行動と言動がオカシイ」くらいにしか思っていませんでしたが、一緒に時間を過ごしていくたびに彼の人柄を知っていきました。
動物を愛し、何に対しても誠実で実直で真っ白な心の持ち主でした。
そんな彼に惹かれて彼の喜びそうな物をプレゼントしたり、一緒に遊んだり、惜し気もなく彼への賛美を贈りました。
長いストールで照れた顔を隠す彼を見た日には、心臓が爆発するんじゃないかと思いました。



『残り十日でちゅ!みなさん、ラストスパートでちゅよー!』



引率のセンセイがそう宣言した日、決意しました。
この気持ちを伝えよう、と。
大好きで大好きで、もう抑えられないところまで気持ちがせりあがってきていたのです。
実は告白をしたことがないのでかなり緊張しましたが、本で読んだ限りではやはりムードが大切だと思いました。
なので、「夕方、浜辺に来てほしい」と朝食の時に誘いました。
彼はコクリと頷いてくれましたが「それまでは共に過ごせないのか」と残念そうに呟くものだから、また心臓を撃ち抜かれました。



夕方、浜辺。
彼は魔方陣を描きながら待っていてくれました。
こちらに気付くと嬉しそうに木の棒を渡してきて魔方陣を描くよう促してきましたが、今はそれどころではありません。
聞いてくれ、と真剣に言うと彼も何かを悟ったようで背筋がピンと伸びました。



「田中、俺はお前のことが―――――」






『さあみなさん、泣いても笑っても今日で最後でちゅ!気合い入れて行くでちゅー!』



らーぶらーぶ、でちゅよ!
嬉しそうに飛び回るセンセイに苦笑しながら、最後の日をどう過ごそうか考える。希望のカケラは全て集まったし、どうしようか。七海達とゲームでもしようか、ああそういえば左右田と花村が打ち上げの打ち合わせしようって言ってたな……
ぼんやりと考えを巡らせながら歩いていると、強い視線を感じた。



(……そんなに見て何が面白いんだか)



あの日から―――――田中が日向をフってから、ずっとだ。
一世一代の告白の返事は、要約すると「親友としてずっと傍にいてほしい」というものだった。恋人になるのは無理、でも傍にいてほしいだなんて。今の俺にはできなかった。
だからあの日から田中を避けて話もしないようにした。何か言いたそうにしていても徹底して無視を決め込んだ。
その結果が、これだ。
痛いくらいの視線に振り向いてしまいたい。けど、そうしたところで俺の望む結果は得られない。
だったら。



「七海、澪田、ゲームしないか。そのあとで左右田、花村、打ち合わせしよう」



親友になんかなれないんだよ。
いいよ田中。
それが世界の選択、なんだろう?



(さよなら、俺の初恋と親友)



はじめての修学旅行はまぶしくて、暖かくて、切ないものだった。





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