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□トガミトトガミ
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「あ、偽十神」

「……その言い方はやめろと言ったはずだが?」



未来機関のスーツをばしっと着こなした細身の十神が、今日も不機嫌そうに椅子に座っている。
まあまあ、となだめる苗木、冷静を装いつつ笑いを噛み殺している霧切もいつもの光景だ。「本物」の十神はこっちだとはわかっていても、どうしても共に過ごした彼を連想してしまうから、実のところ呼び名に困っていた。



「―――――という訳なんだけど苗木、霧切、偽十神、どうしたらいいと思う?」

「うーん、難しい問題だよね。十神クンの素性は彼にも一切わからないみたいだし……あ、新しく名前をつけてあげるとかはどう?」

「名付けもいいけれど、私は別に今のままでいいと思うわよ?……フフ」

「おい……苗木、さらっと奴の方を十神と言うのはやめろ!霧切、笑いを隠しきれていないぞ!何より日向!俺が十神で奴が偽十神でいいだろうが!」



ぎゃあぎゃあとヒートアップする十神を見て、思う。



(やっぱり十神とは違うんだなぁ)



超高校級の詐欺師で自分には何一つ無いのだと悲しそうに告げた彼は、間違いなく十神で。目の前の誇りと自信に満ち溢れた彼も十神で。日向にとってはどちらも「十神」だった。でもそれでは困るわけで。
このままでは結論の出ないまま終わりそうで、どうにかしなければと頭を叩くとそっと苗木に手を握られた。



「あんまり悩まないでね、頑張る日向クンはかっこいいけど……辛そうなのは嫌だよ」

「あら抜け駆けかしら。ねえ日向くん、甘いものでも食べて休憩にしましょう?ちょうど買ったばかりの草餅があるの」

「苗木、霧切……ありがとな!」



十神そっちのけでなぜか甘い雰囲気になる三人に、怒りが限界点を突破する。そんな十神を見た日向は「そうか、わかったぞ!」と何か閃いたらしく、草餅片手に突進してきた。



「あっちを十神、お前を白夜って呼べばいいんじゃないか!?」

「なっ……!」



キラキラと輝く笑顔で日向に詰め寄られる十神を、苗木と霧切は恨めしそうに見つめる。突然の「白夜」宣言に顔が真っ赤になって反論の言葉が出て来ず、かといってこの場で肯定してしまうのもという葛藤が目に見えるようだ。日向とのティータイムを奪われた二人は名前などどうでもよく、早くこちらへ戻ってきてほしかった。



「いいんじゃないかな。白夜クン、わかりやすいよ」

「これ以上ないくらい的確な判断ね……さ、日向くん。お茶がはいったから戻ってきて」

「そうか?なんか偽十神……あ、白夜動かないんだけど……」

「仕様よ」

「仕様だね」

「そ、そうなのか……じゃあ白夜、またあとでな!」



嬉しそうに草餅を頬張る日向をうっとりと見つめる二人と固まったままの十神を見て悲鳴をあげる葉隠と、後日日向以外の全員にも「白夜」呼びをされる事実に驚愕してジェノサイダーに泣きつくも「いいじゃないですかぁ〜アタシは最初っから白夜様って呼んでるしぃ。はっ!まこちんから白夜呼びされる白夜様……イイッ!」と話にならず、むしろ事態が悪化して絶望しかける十神が見れたという。



「白夜ー、居るかー?白夜ー!」

「そ、そんなに大声を出さなくても聞こえている!」

「なんだ、居るなら返事してくれよ」



そして、日向に名前を呼ばれるたびに顔を紅くする十神が見れたという。





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