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□わらべうた side.K
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日向創は、童貞だった。
それは本人から聞いていたし、日向の年齢ではおかしいことは何も無いと狛枝は思っていた。ただ日向は気にしているらしくほんのり頬を染めながら「お前はどうなんだ」と睨まれて、(童貞か、ってことだよね?)ならば答えはイエスだとこくりと頷くと心底意外そうな顔をされた。
「処女か」と問われていたら今ごろ捨てられていたかもしれないと密かに嫌な汗をかいていたのは秘密だ。

それから程無くしてまあお付き合いの過程でセックスに至ったんだけど―――――日向クンが激しすぎてついていけません……



「あっ!あっあっんんっ、ひ、日向クン、ふぁ、も、もうちょっとゆっくり……あああっ!」

「狛枝……好きだ……」

「聞いてる!?ひあぁっ!あんっ、あっ、日向クンってば!」

「気持ちいいよ……っイきそ……狛枝も」

「や、やだっボクもうイきたくない、も、無理、無理だって、あ、あ、あ、うそ……っあああっ!」



とにかく、激しい。
事が始まると狛枝をシーツに縫い付けて離さないし、キスもとにかくねちっこい。しかもキスをしながらしごいてくるものだからまずそこで一度イってしまう。それから痛いほど乳首を弄られ、身体中舐めてないところはありませんというほど舐められる。その最中にもイってしまうことがあった。
穴への奉仕具合も半端ではなく周りを優しく撫でられ続け、どうしようもなくなって早く突っ込めと訴えてやっと指が入れられる。そこからはもう前立腺を押し上げられるわ指を入れたまま竿をしごかれて首筋に噛み付かれたりなんかしてしまってもう。



(思い出したくない……)



とんでもなく攻められて精は搾り取られていた。端的に言うと、疲れていた。嫌ではない、決して嫌ではないけれど……がっつきすぎだ、と思う。
このままでは精神と穴が持たないと決意して、その夜いつも通りベッドに押し倒されながら狛枝は話を切り出した。



「あのね日向クン、ちょっと聞いてもらいたいんだけどいいかな」

「なんだよ、今じゃなきゃ駄目なのか?」

「うん」

「……わかった。なんだ?」



日向は明らかに不服ですと顔に出しながらも手を止めた。その様子にほっとしながら、ごめんねと小さく謝って狛枝は決意の言葉を出した。



「あのね、日向クンがっつきすぎ。毎回毎回ボクが失神するまでやってさ……セックスは嫌いじゃないけど、盛りすぎだよ。覚えたてのセックスが気持ちいいのはわかるけど、これじゃあ猿と変わらないよ」



狛枝は、気のきいた言葉を言うことができない。
それは幼いころからの環境のせいでもあったし、他人を気遣う、他人の気持ちを酌む、ということができなかった。それを好しとしてくれたのは他でもない日向だったし、だからこそ今回も思ったままをつらつらと喋った。
(どうだろう、これで少しは落ち着いたセックスができるかな?)
なんて呑気に考えていると、覆い被さっていた日向の体が退いた。



「……日向クン?」



体を起こすとベッドの端に腰かけて片手で目の辺りを覆う日向が居た。どうしたんだろう、具合でも悪いんだろうかと心配して伸ばした手は、触れることができなかった。



「……ごめん」



小さく呟いて、日向は出ていってしまって。その理由は狛枝には理解できなくて。
気が乗らなかったのかもしれない、何か用事を思い出したのかもしれないと何となくそれっぽい理由をつけて、久々の深い眠りについた。



次の日、日向は至って普段通りだった。
採取もデートも狛枝と一緒だったし、笑って一日を過ごして。さあ帰ろうとした時、違和感を感じた。



(……あれ?)



「コテージの前までがデートだ」と日向が笑いながら手を差し出してくれた時から必ず手をつないで帰っていたのに、日向はもう先を歩いている。慌てて追いかけると気づいた日向が歩調を合わせてくれたが、コテージにつくまで手をつなぐことは無かった。



その次の日、狛枝は掃除担当になった。
まあ昨日は遠くの海まで採取に行ったし疲れていたから丁度いいかと考えて一日を過ごした。採取時間が終わりさて日向を探そうと砂浜まで出ていくと、日向は左右田と一緒に居た。
(採取帰りかな?今日二人一緒だったよね)
早く日向クンと話がしたいなぁと足早に近づいていくと、日向が何か差し出して左右田が顔を赤くしているのが見えた。
あれ、は。
ウサミお手製お出かけチケットだ。



(…………あれ?)



次の次の日もその次の日も、狛枝は掃除担当だった。
体調は至って良好。気分は絶望的に最悪だ。日向を探しにいけば必ず誰かにチケットを差し出しているし、どんなに待ってみても日向がチケットを持ってくることも夜のお誘いも無かった。最近は目すら合わなくなって。



(飽きられ、た?)



理由はわからなかった。いや、わからないくらいあるのだろう。みんなの希望の塊の日向がこんな底辺の自分と付き合ってくれていた方が奇跡だったんだろう。仕方ない仕方ない、これでいいんだ。この方が、日向は幸せになれるだろう。仕方ない仕方ない仕方ない仕方ない。日向クンが居ないことに慣れなくちゃ、と目をを閉じて一人に戻る練習をした。





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