Matrix-1
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 「良かろう。ならば、このデュークモンの周囲をしばし守ってはくれまいか」
 「ああ、言うまでもない!」

 切り立った崖の上、デュークモンは静かに目を閉じ、意識を集中させる。傍から見れば祈っている風にも見える。いずれの時空次元を漂うとも分からぬ浮遊プログラム――プレデジノームへの接続を試みようとしているのだ。
 今のデュークモンは全ての意識を一点に集中させた状態、攻守に気を遣る余裕は一片たりとも無し。況してや、デュークモンを覆うはマグナモンのそれより強度の劣るクロンデジゾイド製の鎧。デスアローが飛んできたとしたら容易く破壊される事は明白だ。
 マグナモンは紅蓮のマントの後ろに回り込むと、ライトオーラバリアを応用した輝く遮断膜を二者の周囲に張り巡らせる。

 「ナニヲ企ンデイル?」

 何処かからかデスモンの低声が響いてくるが、気にする必要はない。ただ、今は時を待てば良いだけだ。その間、マグナモンは脇腹を灼くような痛みを耐え、バリアを維持すればいい。それが中々に困難であるのは言わずもがなだが、ロイヤルナイツたる者、その程度の事で音を上げるのはいよいよ情けない。

 暫しの後。デュークモンの回線の束と化した意識が次元の壁を貫き――異なる世界を彷徨う準原始プログラム、プレデジノームへの接続を果たす。

 (プレデジノームよ、このデュークモンの意思が伝わっているか――)

 デュークモンは思考を糸のように繋がったラインを通じて送る。伝達された電脳核内を駆け巡るインパルスは、解読されて理解される。
 累卵の如く連なった「1」の羅列が返ってきた。プレデジノームは、無を示す「0」と有を示す「1」のみで意思を表す。つまり、YesとNoだ。この場合は、Yes。

 (仮に今手を付けている作業があるならば、それを直ちに中断し、我が要請に応えよ)

 再び1の長い連なり。

 (視野を全方位に広げ、次元擾乱を視覚化する変換プログラムを直ちに製作せよ。此方の次元で実体化されるように)

 一瞬の逡巡もなく流れ込んでくる1の連なり。
 そして、デュークモンが意識を一点に収束させ続け、尚も超次元のラインを保とうとすると、突如再び1の連なりがそこを通過してきた。
 完成したという事だとデュークモンは悟る。
 彼が目を開けて意識を分散させると、眼前には不可思議な物体が浮遊していた。
 透明な半透膜で覆われた卵のようで、内部に複雑な電子回路と共に0と1の断片が満たされている。
 プレデジノームの産物だ。デュークモンは円錐槍でそれを軽く弾くようにして、マグナモンの方へ飛ばす。
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