□Matrix-1
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「!?」
光線は紙一重で避けたマグナモンの右横を擦り抜け――デスアローを喰らい欠損した部分を掠りそうになったので、何とかして避けた――後方に立つデュークモンへと襲いかかってゆく。
咄嗟に聖なる大盾を前に振りかざし、光線が自分に直撃するのだけは防ごうとした彼であったが、無意味な行動であった。
光線は何と盾を擦り抜け――デュークモンの本体に到達したのだ。
壮麗な甲冑の中央を貫いた光線はその直径を増し、やがてデュークモンの全身が赤い薄光に飲み込まれた。
衝撃と被る損傷を予測して、反射的に身を縮める。
「……?」
しかし予想に反して、衝撃も、データ損傷もない。攻撃されたわけではないようだ。
ならば、何が起こったというのか。
デュークモンの双眸が、己の周りを赤光に溶けるように淡い薄光が漂い始めるのを捉えた。目を凝らすと、それが0と1の集合体に他ならないと分かった――
――自分の躯より、漏れ出た。
一気に全身がすっと冷え込む。
――身体がデータ分解されている!
背後を振り返ったマグナモンも、デュークモンの身に起きた異常事態を呆然と見つめる。
まさか、最後の最後でデリートされるなど――!
マグナモンは現実に対するせめてもの反抗のように、脇腹の痛みが意識に割り込ますノイズを無理矢理ねじ伏せ、朋友の名を叫んだ。
「デュークモン!!!」
またも同志を失う事になるのか。聖騎士ロイヤルナイツとして使命を背負った身ならば命を失う事も辞さぬ、また常に失うべきものと腹をくくるのが掟、そんなのは百も承知だ。
だが、こんなのは認められるものか。断じて。自分が全力を尽くし、デスモンを葬り去り、目的ごと闇に消し去ってやる筈だったのに。
努力は無為の内に潰えたも同然、結局敵に目的を達せられる羽目になるなどと、認められようか。
デュークモンの澄んだ黄玉の瞳は小刻みに震え、普段は毅然とし泰然としている筈の彼でさえ、甘受したくない現実をどう受け止めれば良いのか分からなくなっているようだった。
「クカカカカ……あーまー体ヲ道連レニスル事ハ出来ナカッタカ。安心シロ、ソレハでりーとサレテイルトイウコトデハナイ」
もう殆ど姿を失い黒靄の残滓になった――それももうじき霧散しそうなデスモンの声が、前方の虚空から響いてくる。声だけは、どんな状態でも出せるようだ。
デリートされている訳ではない。短時間である程度把握したデスモンの気質からして、それが嘘のようにはロイヤルナイツ達には思われなかった。だが、彼らを安閑とさせまいとする事実がすぐさま降りかかる。
「起動サレタノハ、『しんぷれっくす・とらんすみっしょん』ぷろぐらむ、……クカカカカ!」
「何……だと!?」
ロイヤルナイツ二者が、同時に凍り付く。