ストラトスフィアの決戦場
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 ――もはや看過できぬ。
 薔薇輝石の騎士の中に黒い焔のようなものが炎々と立ち上がる。本来外部者が来ていいはずのない場所に大挙して訪れ、あまつさえ知らぬとはいえ所有権が自分に帰しているものを無断で持ち帰ろうとしている! 仮に情けで他の事項に目を瞑っておく事が出来たとしても、それだけはどうあっても黙ってはおれぬ。
 
 あとは言わずもがなである。彼は同情や憐憫の情は不要と、自分が何者かだけ一応名乗ると、瞬く間に今し方摘んだばかりの花を抱えて恐れ戦いている蜂共を切り刻んだ。
 しかし此処で大変まずい事――と言うべきであろうか――、ロードナイトモンとあろう者が、たった一匹、蜂を取り逃がしてしまったのだ。
 ロイヤルナイツたる者、任務の遂行、敵の殲滅は水も漏らしてはいけない。微少な綻びは巨大な崩落に――大山は蟻穴より崩る。守護騎士たる者、完璧であれ。そう在るよう暗黙の内に強いられ、それを当然のものとして思い込んでいる身としては、たった一匹の塵芥にも等しいデジモンを逃してしまった事すら、失態であった。よもやあの蜂が自分の巣に帰り、この庭園についてのデータを公開しないという可能性は切り捨てられないのだから。もっとネガティブなベクトルの想像をすると、その蜂の巣――もとい組織がダークエリアの魔王権力と通じていて、この空中庭園を蹂躙する事を画策、実行に移そうとしているかも知れない。そうなると、自分は――
 ――「ドルモン」を、守ってやれるかどうか。

 そういう訳で、泰然かつ優然とした居住まいが板に付いているロードナイトモンといえども、このところ気が気でない状態だ。庭の方に出て行く回数も通常時より幾分増え、再びあの蜂の群れがやって来たら今度こそ全滅させてやるという心意気の元と、なるたけ恐れている事態が杞憂であって欲しいという、消極的な慰めの元とに彼はあった。心気を病んだ者のように、偏執狂者のように彼の電脳核デジコアの情報処理機構はたった一つの事にだけかかり切りになり、まるで他の事に回らない。

 結局、この直後彼の憂慮していた事は半分はずれで――半分は実現されたというのが示される羽目になるのである。
 そう、ある意味、大山は蟻穴より半壊した状態――になったのだ。
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