ストラトスフィアの決戦場
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 ごおぉぉぉぉ。
 唐突に、突風が雄叫びを上げながら吹き荒んだ。
 
 「!?」

 突発的な事態に吃驚しつつ、ロードナイトモンは咄嗟に空いている左手――右手にはパイルバンカーが装着されている――で前方を庇い、両足を踏ん張って暴風に抵抗した。
 ががががが。
 凄まじい摩擦音を立てて、重量級の何かが地面に突撃し、かなりの規模の地層表面部が抉られる――植えられていた色とりどりの可憐な花々が無残にも潰され、その残滓が風で吹き飛ばされる。が、ひとまずロードナイトモンにはそれを気にしている余裕は無かった。即座に身を庇う姿勢のまま遥か後方へと飛び退き、衝撃波を喰らうのを避ける。

 暫くすると暴風も轟音も止み、ロードナイトモンは防御態勢をひとまず解いて前方に目を凝らす。
 突っ込んできた無粋で暴虐な存在は、どうやらそれなりの大きさを誇る、航空船のようなものらしい。白くて飾り気のない、機能美を誇る滑らかなフォルムの搭乗船だ――こちらに向いている前方先端が弾丸のように窄まっており、突撃されたらひとたまりもないだろう。
 この空中庭園が悠久の楽園であり、恒久の平和が約束された場所だというのは、もはやただの神話に成り下がったのか――と歯噛みしながら彼がじっと様子を見守っていると、船から何者かが降りてくるのが見えた。
 それと同時に、同心円状に放出される電脳核デジコアの強烈な波動。
 
 「よぉ」

 非常に馴れ馴れしい呼びかけ――いや、敵意剥き出しの声。
 聴覚センサーを振らせる音源に、ロードナイトモンは目を遣った。
 つかつかとこちらに歩み寄ってくるは、すらりとした長躯に纏った虎縞模様に彩られた装甲、細首に巻かれた、所々擦り切れた紅蓮のマフラー、両の手に握られた浅黄色の刀身を持つ平たい剣――それを備えた一体のデジモン。ロードナイトモンはセンサーを集中させずとも、かの者が希に見る実力者――ともすれば自身と互角の力を持つであろう事は優に分かった。
 そして、虎縞模様の体は蜂のそれと同じ――つまり、以前此処を図らずも荒らしに来たあのデジモン達と、同じ穴の狢よろしく同じ巣の蜂と断定できる。
 眼前のデジモンは右手に握った剣の先端をロードナイトモンの方に向けると、ぶっきらぼうに訊いた。そこにはある種怒りのようなものが籠もっているように感じられた。
  
 「あんたが、ロードナイトモン、で合ってるよな?」

 少々意表を付く発言。
 此処で「あんた何者だ」と訊くのがセオリーというものだが、ともすればあの蜂男は調べが付いているのか。やはり一匹蜂を逃したことは、大きかった――ロードナイトモンは心中遺憾の意を表する。
 だが、微動だにしない。此処で「はいそうです」と肯定するは阿呆のする事、わたわたと動揺するは未熟者のする事。そして、敵の質問に易々と答えるは能無しのする事。逆に――此処で質問を反対にぶつけてやるのが、上級者のする事だ。
  
 「貴様こそ何処の何者なのだ。招いてもいない客に名前を訊かれる覚えも――庭を荒らされる権利も無いのだが」
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