ストラトスフィアの決戦場
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 毅然とした、だが冷ややかな声で言い放ってやると、相手――仮に“蜂男”としておく――は、然程ショックを受けた様子もなく、飄々と返してきた。強がっている風でも、気を張っている風でもない。これがかの者の素であるらしい。

 「まあ、あんたがロードナイトモンっていうのは確認済み事項だからいいとして。それにしても随分な物言いじゃねえか? 初対面の相手に対して」

 自分の事を差し置いてよく言う。ロードナイトモンは内心呆れた。
 
 「……私の質問に答えろ。私が何者か分かっているならば、貴様と私の立場がどちらが上かは明白な筈だ」

 最高位の守護騎士・ロイヤルナイツの権力を振りかざした脅しである。ロードナイトモンとしては、本当はこんな真似はしたくないのだが、この蜂男が何処の何者なのかは最低限でも把握しておく必要があった。
 すると蜂男は、むすっと口を尖らせた。

 「そりゃあ知ってるけどさ、こっちにもプライベートというものがあるんだ、詳しい事は言えないな。俺はまあ――『タイガー』とだけ」

 虎縞模様そのままの名前だが、以前にも聞いた事があるような無いような。ロードナイトモンは記憶の鉱脈を掘り進んで行こうとしたが、無駄な事なので止めた。
 そんな事より、話を先に進めた方がいい。

 「而して、タイガー、貴様は私に用がある様だが」

 どうせこいつが以前此処にやって来た不届き者の蜂共の上司か何かである事は明白で、仇討ちかもしくはこの庭園を陥落させるに当たって自分の存在が邪魔であるから、真っ先に排除しておくというのが目的であるというのがとどのつまりだろう。ロードナイトモンはそう断定しつつも、素知らぬふりで訊く。

 「こないだ俺の部下が世話になったな。そのお返しってこった。思い当たる節はあるだろ?」
 「大いにある。だが、あれは私にとって最も適切な処置だった。後悔はない。一匹取り逃した事を除いてはな」
 
 ***
 
 「綺麗な所だなあ」

 というのが、タイガーヴェスパモンの最初に抱いた感想である。
 薔薇を中心とした咲き乱れる美しい花々の絨毯、白日昇る穏やかな蒼天、というだけでも筆舌に尽くしがたい感動があるのに、おまけに向こう側にやたら壮麗な城が聳え立つときた。成る程、此処が隠された楽園てわけか。幻想的な美景に怒りも薄れていってしまうのを、何とか人工的に怒りを創出する事によって食い止める。観光目的で来たのではないという事は忘れてはならないのだ。
 
 来るなり目の前に目的の相手がいたというのは運が良かったが、正直驚いた。まあそっちの方が断然都合がいいが、立派な城があるからその最上階にて玉座に鎮座して待つ――というのがセオリーだからだ。というのはただのゲーム脳の奴の考えかも知れない。くっ、RPG早くやってみたい――という余計な考えがタイガーヴェスパモンの頭をよぎるも、リリモンの事を思いだしげんなりする。
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