Thrill Seekers
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 空気を熱く振動させるエキゾーストの静かなる咆哮、荒れた黄土の大地とタイヤが擦れ合うノイズ。乾いた風の中、それを奏でながらバイクは疾駆する。
 じりじりと焦げ付くような無慈悲な陽光を受けて、漆黒のボディはてらてらと輝く。おそらく相当の熱が籠もっている事だろう。今にも湯気でも立ちのぼりそうな気さえしてくる。
 マシーンを駆るのは、その色に負けず劣らず黒い装束で身を固めた者だ。白いファー付きジャケット、革製と思しきズボン、鉄の爪が三本上に反り上がっている攻撃的なロングブーツなどから、一見その者が人間であるかのように思うかも知れないが、臀部から長く伸びた硬質の尾や、濃紺の仮面から覗く三つの紅眼などが目に入ったならば、明らかにそうではないと言えるだろう。
 
 彼は三つの目を細め、まっすぐ遠方を見やった。この無味乾燥な場所は果たしてどこまで続くのだろうか、相当視力が良い彼にもひたすら黄褐色が続いていくことしか分からなかった。まあ遠方に靄でもかかったようにぼんやりとそびえる山が見える気がしないでもないが、どれだけこの黒鉄の移動機を飛ばした所で辿り着けないと目測を付けた。
 
 はあ、と深い溜息が、ついで忌々しげな舌打ちが乾いた大気の流れに溶ける。うんざりする位続くこの代わり映えしない状況に、いい加減腹が立ってきたのだ。
 彼は何か別段の目的があってこの大地を進んでいるわけではないが、出来ることならば「面白そうな」場所があればいいと期待している。それは休憩所でもいいし、或いはもっと殺伐とした場所でもいい−−当人としては後者をより望んでいる節があるのだが−−。
 背中にパイプで固定されたのと、左足のホルダーに収納されたのとがある重厚なショットガン−−名はベレンヘーナという−−に、手を掛ける機会がさっさと訪れて欲しいのだが、ずっとこの調子だ。
 
 (畜生、つまらねぇな。こんな事になるんだったら、あの湿地帯にしておけば良かったか……それとも、あの砂漠地帯にしておけば良かったか……)

 そう延々と後悔にも似た問答を心中繰り返す彼であったが、引き返すという面倒な事はしたくなかった。またあの途方もない距離を行くことになるのか−−そう考えると頭が痛くなってくる。それならば、望みは少ないとしてもこのまま行けば何処かに出られるという可能性はある現状を取った方がいい。
 
 それにしても、暇で仕方ねぇな−−と彼はもう一度舌打ちをした。
 目もくらむような日射の下、漆黒のバイクとその乗り手は黄土の大地をゆく。
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