ストラトスフィアの秘蜜基地
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 此処は、「中央制御室」と言うと聞こえの良い引きこもりの部屋である。

 「ああ……暇だ」

 タイガーヴェスパモンは本日何度目かの−−いや、何十度目かの決まり文句を呟き、投げやるようにはあ、と深すぎる溜息を吐いた。
 眼前の基地周辺のモニタリング用ディスプレイには、繰り返しチャレンジした「マインスイーパ−」というゲームの画面がでかでかと映っている。これはリアルワールドから極秘ルートで取り寄せたPCゲームの一つで、9×9マスのパネルに隠された地雷に触らずに他全てのパネルを開ける事でクリア−−地雷駆除完了−−となる。彼は何十回もこれをプレイしているが、一度たりともクリア出来た試しはない。最初に開けたマスが地雷でいきなり終了という不運だけならまだしも、頭を使うゲームで勘と勢いだけで進んで行くからクリア出来ないのは当たり前である。
 
 タイガーヴェスパモンは腰掛けた椅子を勢いよくくるくると回転させて遊ぼうと体を捻ったが、椅子が完全に固定され微動だにしない事に気が付き、肩を落とした。そう言えば、自分の回しすぎで椅子が今にも壊れそうになっているからと勝手に秘書−−もといリリモンが度を超えて修理したのだった、と彼は思い出す。超高密度のクロンデジゾイド金属で造られた椅子は、重装甲をも容易く貫通するキャノンビーモンのレーザー砲の雨に晒されようが傷一つない状態で残る程堅固なはずなのだが、あまりにも回しすぎて回転支柱が摩耗してしまったのだろうか。そんな馬鹿な事はあるまいとは思うが。

 「ああ……暇だ」

 彼はまたも呟き−−いや、かなり大きな声だった−−いよいよ体力を持てあました。マインスイーパ−の他にリアルワールドのPCゲームはソリティア、フリーセル、ハーツ、麻雀といったものなど色々あるが、全部やり過ぎて飽きた−−そして例外なく勝率は低い−−。もう遊ぶ事も特にないのだ。
 今度は、リアルワールドにあるRPGとかいう夢のあるゲームを取り寄せてみようかな、などと考えていたら、背後の認証式ドアが機械音を立ててスライドした音が聞こえた。関係者が入ってきたのだろう。どうせ基地内で何者かに急襲される事も有り得ないし、と電脳核波動センサーはオフにしてあるので誰が来たのかは振り向いて−−椅子が回らないのが不便だ−−確認した。どうでもいい話だが、このタイガーヴェスパモン専用の部屋には、スライドドアがパスワードロック式なため彼以外には入れない仕様のはずだったのに、三日ほど前から何故か他の者が入れるようになっている。まあ機密情報もないし別にいいか、と彼は気にしていない放逐ぶりである。

 そこには、椅子をがちがちに固定した張本人、リリモンが立っていた。琥珀色に煌めく液体をなみなみと注がれたグラスをトレイに載せて持っている。
 ピンク色の百合の妖精、といった可憐な容姿を持つデジモンであるが、その毒舌はスコピオモンの針よりも強力かも知れない。普通一般のリリモンはおてんば、気まぐれ、泣き虫という気質の持ち主であるはずなのだが、このタイガーヴェスパモン専属の「秘書」であるリリモンは、どの気質も持ち合わせてはいない。本人にはデリートされても言えないが、「可愛くない」奴である。
 
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