ストラトスフィアの決戦場
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 白日は天高く、眼下の広大な花園と屹立する壮麗なる城を照らし出す。そよ風は声を立てずに吹き、一面に咲き乱れる麗しい花々を撫で、揺らしてゆく。麗しい花香は緩やかな風に乗り、何処へともなく流れてゆく。その穏やかな静寂を破壊する者は、誰一人として居ない。
 此処には永久に続くであろうと思われる平穏がある。リアルワールドに創世の時代存在していた、常昼のエデンのように。

 騎士は花園を歩いていた。
 悠々とした足取りで己が庭園を進むその姿は典雅この上なく、一挙手一投足が最も風雅に見えるように計算され尽くされているような疑念すら抱く。麗らかで少し眩しくすらある陽光が彼の薔薇輝石で造られた全身を照らし、光なくとも尚綺羅綺羅しいその光沢を一層煌びやかにする。肩と胸より伸びた鋭い帯刃は、凝縮した太陽光を放つように目映く揺らめく。
 彼――“薔薇輝石の騎士王”ロードナイトモンはデジタルワールドの守護騎士集団ロイヤルナイツの一員にして、この成層圏の何処とも知れぬ場所に浮かぶ、空中庭園の主でもある。中央に聳え立つ荘厳にして壮麗な城は、彼とその部下ナイトモン達――そして、来たる時まで存在を隠され、守られるべきであるロードナイトモンに委ねられた「未来」が住まう。

 庭園の正確な位置は彼以外に知る者は居ず、また知る術もなく、探す術もなく、それ故にこの美しき庭園の安寧は彼の命にもたれかかっている。この薔薇輝石の騎士が死する事は、庭園の存在が永久に雲海の中へと葬り去られるのと同義になる――デジタルワールドに数多く存在する、しかしながらその存在を公的には確認出来ていない、隔絶された“エリア・アンノウン”の一つとして。
 
 ――そのはずであったのだが。
 平穏は全く予期せぬ形で崩れる事となる。
 先日、蜂の大群の様なものが突如として現れたのだ。
 ロードナイトモンはその時偶然今のように庭を歩いていた。だから正に目の前に蜂の大群が押し寄せてきたわけである。
 このついぞ目にした覚えもないような連中は何処から来たのか、まさかこの庭園の存在が外部に漏れ、内状を探りにやって来られたのか――いやそれにしては数が多い――、いわゆる悪意の波動は感じられないが、万が一の事を憂慮し殲滅した方がいいか――などと思い巡らせている内に、決定的な事態が起こった。
 蜂共が、嬉々として庭園の花を摘み始めたのだ。
 一本一本、どれ一つとしてどうでも良いものはない美々しき花達。種の頃から丹精込めて育て上げた、自分の子供だと言って差し支えないような花達が。ブチブチと血も涙もなく茎から手折られ、かき集められて行く。
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