パロットモン君のスクールライフ
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 僕には大きな問題がある。
 
 こうやって心の中で独白をしている分には、僕には何の問題もない。もし僕が筆談ができて、相手に自分の言いたいことを難なく伝えられるのならば、それもまた無問題である。もしくは、僕がエスパー能力を持っていて、相手の頭に直接意思を伝達することができるのならば、それは最高ってもんだ。
 けれども、僕は現に手の構造上ペンを持つことができないので筆談という手段を持たないし、同じ理由で端末を持てないのでたとえばメールを打ってその文面を相手に見せるなどという芸当もできない。もちろん、残念なことにサイキッカーでもないので喋らずして意思を伝達するとかは不可能だ。というかサイキッカーなんて見たことない。あのロイヤルナイツでさえ意思伝達するときは喋らなくてはならないそうだし。

 じゃあ授業とかどうしてんのというと、完全体ともなれば集中して授業聞いてれば内容なんて忘れるもんじゃないから大丈夫だ。ノートを取る必要がない。成熟期まではデジコアが未発達だからインプット&アウトプットが思うようにできない。まあ自分も元成熟期だったわけだけど。
 あれ、じゃあテストはどうしてんの? というと、大丈夫。鳥系デジモンの特別クラスにはテストがないんだ。元々我らがD-セントラル校には鳥系デジモンのためのクラスなどなかったのだけれど、何年か前にホウオウモン様という超えらい鳥系デジモンの王様が、校長にゴネまくって作られたという経歴がある。
 まあ扱いとしては聴講生ってかんじかな。つまりなまじ学校に来て授業はそこそこに聞いて友達と喋って帰って、という「とりあえず学生してます」つー連中よりは余程やる気も根気もあるってわけ。あ、別に僕がぼっちだからすねてるわけじゃないよ。

 まあここまでばーっと言ったけど、そもそも何が問題なのかっていうと。どうして僕が筆談できたりエスパーだったらいいのかっていうと、それは――

 「あ、頭ん中身幼年期並みの完全体のパロットモン先輩だ。おーい!」

 おっと、背後から聞き慣れたヤジ。どうやら恒例行事が始まったようだ。
 こうして僕が屋上で風に吹かれながら静寂の内に弁当を食べていると、絶対やってくる奴がいる。毎回僕のミョルニルサンダーで撃退しているのに、全くご苦労なこって。ところで今日の弁当の中身は自家製挑戦ニンジンと巨大肉の煮物、デザートにはニッコリンゴのスタッフドアップル。夢のようだよ。もちろんワイルドに手づかみ&がっついて食べる。あ、ちなみに弁当は何処から出してるのかというと、首からほら端末ぶら下がってるでしょ? これから12:05になると自動的にボックスランチが出てくるんだ。用意してくれたのは僕の優しいお母さん。さすがデジタルワールド、何でもデータにしてしまっておけるのさ。その点リアルワールドは不便よね。

 「んだよ、無視しやがって。あそっか、脳ミソ幼年期だからオレが挨拶してやってんのが理解できないんだもんな〜」

 気が付くと僕の平穏を乱す侵入者は真横まで移動してきていた。羽音も立てずに飛ぶのが忍者っぽくて何かむかつく。あ、いや、こいつにそんなかっこよくてクールな職業が似合うわけがない。レイヴモン先輩に失礼だ。

 「馬鹿、ぼっち、根暗、弱い、お前生きてる意味あんの?」

 あ、紹介し忘れてた。このDQNは下学年のセーバードラモン。見ての通りまっくろくろすけで、ついでに名前も見た目もバードラモン君のパクリだ。ってそういえば彼の弟だった。兄さんは出来がいいことで有名なのに、弟ときたら授業は殆どサボり、毎日屋上まで出掛けて行っていやがらせをすることに生き甲斐を感じているようなDQNなのだ。何しに学校来てるんだよ。

 「あ〜一つだけあんな〜お前生きてる意味。それは、このオレ様にいじめられるというやつだぜ!」

 てっきり忘れてたけどこいつ鳥系デジモンじゃん。そのくせしてこのていたらくなんて有り得ないよね。つーかこいつさっきから何かうるさい。

 「ぶふぇっ!?」

 
 僕は羽の間で青い稲妻を造り出し、そのまま真横のDQNに飛ばす。バチバチとスパーク音が鳴り、案の上DQNは間抜けな声を出して焼け焦げる。焼けても元から黒いのであまり焼けた感じがしないのは残念だ。
 真横の焼き鳥……というか焦げ鳥には目もくれず、僕は弁当を食し続ける。以前ならわざわざあのDQNの方を向いてからミョルニルサンダーぶっ放さなきゃならなかったが、あいつを撃退し続ける度に技の精度とか柔軟性とか上がってきている。そのうちあいつが屋上に現れた瞬間ミョルニルサンダー発動できるかも知れない。
 
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