Matrix-1
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#3 二世界の交錯地点
 

 ――誰も座らないまま、永い時を待っている椅子がある。余りにも大きすぎて、誰も腰掛けられない程の椅子が。
 しかしそれは誰かの為に用意された椅子だ。何時の日かその者が座す事を待ち続ける…… 

 ドルモンはゆっくりと目を開けた。どれ位眠っていたのかは分からない。一瞬のような気もするし、永遠のように長かったような気もする。脳裏を過ぎったのは、ロードナイトモンが何時も口にしていた言葉だ。どういう意味なのかは良く分からない。だけれども、何時も自分に向けて言っていた。

 うずくまっていた状態の体をむくりと起こし辺りを見回すと、あの光の柱はないし、果てない黒き大地もない。ドルモンは自分が異様な空間にいると気付いた。

 地面は一様に白い。何か白いものが、もともとあった地面の上に積み上がっているようだ。三角屋根または平たい屋根の、そこまで高さはない建物が道を隔ててこちら側とあちら側にきちんと並んでおり、その入り口と思しき場所の周辺はきれいに白いものが避けられていて、別の場所に積み上がっている。

 至る所に建っている灰色の柱の下部には、黒と黄色の虎模様の板が巻き付けてある。上の方を見ると、細い線やら太い線やらが巡らされているのが分かった。ついでに空の色を眺めやると、それは鉛色だった。初めて見る色だ。

 何もかも、見た事のない異質な空間。
 そう、ここが。

 (リアルワールドってこんなところなんだ〜……)

 正確には、これはリアルワールドの一部の地域だけに限った光景なのだが、まあ仕方ない認識だ。ドルモンの世界とは今まで、一日中澄み渡る青い空の元、種々の花々の咲き乱れる大庭園とその中央にそびえ立つ天を衝くような美しく荘厳な城――そして、あの恐ろしい暗黒地帯――それだけだったのだから。

 ドルモンの、辿り着くまでに感じていた不安や恐怖よりも、好奇心と期待が勝り、胸が躍る。
 早速、自分の横にうずたかく積み上がっている白い山に大口を開けてかぶりつく。
 ふわふわと柔らかくて軽い感触。しかし。
 
 「つめたい〜!!!」

 ドルモンはのたうち回った。あまりの冷たさに頭がきーんとする。口の中では大量の白いもの――もとい雪が体温で即座に溶け、水となって溜まっている。ドルモンは冷水をぺっぺっと吐き出すと、激しく後悔した。

 (なんでもくちにいれちゃだめってロードナイトモンにいわれていたのに〜、やっちゃった〜)

 ドルモンは興味を覚えたものを何でも口に入れるかかじるかする習性があるのだ。ずっと昔、そのせいでロードナイトモンをこっぴどく怒らせ、かなり躾けられたのだが、どうしても本能というものの根本は矯正できないらしい。

 再びうずくまりながらちらっと向こうに目をやると、道路の向こう側から三人ほど、楽しそうにおしゃべりをしながらこちらに歩いてくるのが見えた。
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