□Real-Matrix:ADDITIONAL
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#4 黄金の輝きは我が誇り
その時、重苦しい沈黙を、場違いに明るい声が破った。
「さっきから気になってたんだけど、その鎧かっこいいね! 触ってみてもいい?」
「は?」
「……え?」
信也の目が点になる。
マグナモンは不可解な現象に遭遇したときのような顔で硬直し、発言者――友樹の方を見つめた。
(触りたい・・・・・・と言ったのか?)
電脳核の情報処理機構が一瞬錯綜する。いや、友樹の言っていることは分かる。自分の鎧に触りたいと言っていることは分かる。
「触れたら障壁に弾かれてダメージを負ってしまうかも知れない」という心配は微塵もないのか?
そもそも、鎧は触るものなのか――?
周囲の怪訝な反応に、友樹は悪い事をしたような顔になり、みるみるうちに暗くなり、やがて肩を落としてしまった。
「……ごめん。やっぱり駄目だよね。強そうだしすごいな、って思ってたんだけど」
そうも落ち込んだ様子で言われると、マグナモンは自分こそ間違っていたのではないかという錯覚に陥りそうになった。
喩え同様の内容を他のデジモンに猫なで声で言われたとしても、何の痛痒も感じないはずなのに。
この奇跡の力を宿した黄金の鎧と同じくらい、自分の意思は堅固なものだとばかり考えていたが。
相手がほんの子供だからだろうか。それとも――リアルビーイングだからだろうか。
「突然の申し出で驚いただけだ。触れてくれて構わない」
「やった! ありがとう!」
友樹は今にも飛び上がりそうな勢いで立ち上がり、マグナモンの下へ足早に駆け寄った。
それからは触り放題だった。腰を覆う草摺の部分に触れたり、手の甲でこんこんと軽く叩いたり。普通の鎧ならば指紋だらけになっているだろう。
当のマグナモンは、落ち着かないような、自分が何をしているのか段々分からなくなっていくような妙な気分で、されるがままになっていた。
友樹は鎧に触りながらも時折信也の方に促すような視線を投げかけているが、彼は流石にそんな気は起こさなかったらしい。肩をすくめてみせるだけだった。
一通りの“検査”が済んだ後、友樹は実に満足そうな表情でふうと息を吐いた。
「きれいなだけじゃなくて、結構硬そうだね。フロストモンの斧でも攻撃を通すのは無理かも」
「無理でなくては困る」
顔を顰めて発された、有無を言わさぬ強い語調に、友樹が首を傾げた。
マグナモンにとって、鎧は自分の誇りそのものである。デジタルワールド屈指の鎧の堅牢さについては、しっかり布教する必要がある。
「俺の鎧は超金属のクロンデジゾイドでできている。傷つけられる者などそうはいない。実力とこの鎧とがあるからこそ、今の自分の身分があるのだ」
単に鎧の防御力に頼り切りというのではなく、奇跡のデジメンタルを御するだけの力を元来備えていたのだということを言外に強調する。
すると友樹は、「身分」という言葉を聞きとがめた。
「へえ。じゃあマグナモンって、偉い人なの?」
「十闘士の時代の者に言って通じるか分からぬが……俺はロイヤルナイツという組織の一員だ」