Matrix-1
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 「何者だ!」

 黄金鎧の竜の鋭い一喝を合図に、ロイヤルナイツ二者は悲哀を即座にぬぐい去り、非情なる守護騎士と化す。
 マグナモンは両手を構え、デュークモンは尖鋭な円錐状の西洋槍を上に突き出し迎撃の態勢を取る。

 声の主の姿は全く確認出来ない。しかし、両者の電脳核波動感知センサーは、かの者がかつてない程強大な力を保持している事を各々に告げている。
 敵の属性は中立種の「データ」。推量するに、下手をすれば自分達ロイヤルナイツにも匹敵するかそれ以上の存在だろう。最大限の警戒線を張り巡らし、ロイヤルナイツは見えざる敵がどう出るかひとまず窺う。

 「クカカカカ……」

 おぞましい嗤い声が響き渡った。
 突如、二人の前方の虚空で黒雲が発生する。先程まで二人が眺めやっていた暗黒地帯の霧――あれが塊と化したような。
 間違いなく、これが強烈な電脳核の波動を発信している。
 一旦標的が視覚に訴える存在となったならば、話は簡単。目に見えるものを始末すればいい。しかし、ロイヤルナイツ二人は決して早まらない。敵が何の目的で来たのか、どういう情報を持っているのか、それを出来うる限り引き出すまでは相手をデリートしに掛からないのが、組織構成員の鉄則だ。
 
 「クカカ……ワタシヲ攻撃シナイデオイテクレルトハ、随分ト紳士ダナ、ろいやるないつ共。後悔スルコトニナルゾ……?」

 それを知ってか知らずか、黒雲はそう余裕に満ちた言葉を発する。
 黒雲は膨れあがりながらもくもくと変形し始めた――脚に、胴体に、腕に、翼に、そして頭部に。やがて一つの完成体を成す。
 ロイヤルナイツ二者は息を呑んだ。
 面妖な怪物だ−−何に例えるべきかおよそ見当も付かない。ただ、そのあまりに特異な特徴を挙げるならば、ぎょろぎょろと光る巨大な黄色の目玉が頭部に一つという事だ。

 その姿にデュークモンは見覚えがあった。暗黒淵深くに蠢く魔性――その一体。彼をダークエリアへと立ち入らせてくれたとある者に説明を受けた事があるのだ。

 「デスモン……堕天せし魔王か……!」
 「クカカカ……如何ニモ。貴様トハ何処カデ遭ッタコトガアッタカナ」

 ダークエリアでな、とデュークモンは心中で答える。
 この異形の魔王は、元は高位天使の座にあった。それが、天に反逆せし行動を取って、闇に堕とされたのだ。しかし魔王でありながら悪行に手を染めず、あくまで中立の立場を取り続ける――「来たるべき時」に、その身を漆黒に変え、破壊神と化すまでは。
 そして、眼前に浮かぶこの魔王の躯は――灰白色。
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